社説

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 大災害や他国から武力攻撃を受けた際に内閣に権限を集中させる「緊急事態条項」の創設が、憲法をめぐる論点として浮上してきた。

 現行憲法に規定はない。自民党は「非常事態に対応する条項が要る」として憲法改正草案に盛り込み、改憲の突破口とする考えだ。

 安倍晋三首相もかねて「緊急時の国家と国民の役割を憲法にどう位置付けるかは大切な課題」と述べてきた。熊本地震で震度7を記録した翌日には、菅義偉官房長官が同じ趣旨の発言をしている。

 9条改正は国民の反対が根強い。そこで抵抗感の少ない災害対応を掲げて理解を求める。そんな「お試し改憲」の狙いが透けて見える。

 そもそも、緊急事態条項は「非常事態」を理由に内閣が超法規的な措置を取る規定である。国会に諮らずに政令を制定し、国民の権利を制限できる。一時的であれ、時の政権に絶対的な強権を委ねる仕組みだ。

 そんな条項が本当に必要なのか。少し立ち止まって考えたい。

 災害時の緊急事態条項は古くて新しい議論だ。東日本大震災の直後も「改憲の契機に」などと期待する声が上がった。

 論拠の一つが道路などをふさぐがれきの問題だ。勝手に撤去すれば憲法が定める財産権の侵害になる懸念があり、救助などを阻んだという。

 災害法制に詳しい兵庫県弁護士会の永井幸寿弁護士は「それは全くの誤解だ」と指摘する。

 災害対策基本法では、市町村長はがれき撤去などの応急措置が取れる。むしろそうした法制度がよく理解されていないことに問題がある。

 必要なのは現場の実情を知る自治体が住民を守れるよう、国が総力を挙げて支援することではないか。

 岩手、宮城、福島3県の沿岸37市町村を対象に日弁連が行ったアンケートでも「憲法が障害となった」と回答した自治体は一つだけだ。大半の市町村が国主導でなく自治体主導の災害対応を訴えている。

 現地の事情にうとい内閣の判断が混乱を招く恐れもある。福島第1原発事故の直後に国の放射能影響予測の公表が遅れ、多くの住民が汚染度の高い地域に避難した。そうした事例を教訓としなければならない。

 少なくとも、災害時の内閣への権限集中は的外れというしかない。被災地の自主性を重んじるべきだ。

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