社説

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 緊急事態条項とは、国が危機にひんした際に政府が独自判断で超法規的な措置を取る定めのことだ。一時的に人権を制限し、政府に権限を集中させる。今の憲法にそのような規定はない。

 大災害の発生や他国から武力攻撃など、対応をじっくり協議する余裕のない場合はどうするのか。政府、自民党はそうした想定を持ち出して条項の必要性を強調する。党の憲法改正草案に盛り込み、改憲論議の優先項目と位置付ける。

 「国民の安全を守るための措置」と言えば聞こえはいい。共同通信社が先月行った世論調査では、52%が条項の創設に賛成し、反対の44%を上回った。いざというときは政府が迅速に対応して助けてくれる-。そんなイメージがあるのだろう。

 だが、国の土台である憲法の改正に結び付く問題だ。災害時の対応というのなら、私たちも災害体験に即して慎重に考える必要がある。

 21年前の阪神・淡路大震災を振り返りたい。多くの家屋が倒壊し、国や自治体の対応は混乱した。直後にがれきの下から被災者を助け出したのは、住民たちだ。地域の連携が多くの命を救った。

 国の対応は迅速とは言い難かった。それでいて「もっと権限を委ねてほしい」という現地の要請をはねつけた。そうした経緯を踏まえてのことだろう。当時の神戸市長、笹山幸俊氏は「大規模な災害には、現場に身近な市町村長が直接災害に対応する仕組みが必要」と訴えた。震災から6年目、神戸で開かれた衆院憲法調査会地方公聴会でのことだ。

 東日本大震災で、国は事故を起こした原発の10キロ圏内に避難指示を出した。福島県のある町長はテレビでそれを知り、被災者の捜索を断念した。実際は周辺の放射線量は低く、「国の判断や情報伝達の誤りで救助に行けなかった」と悔やむ。

 現地の事情にうとい政府が強権を振るうよりも、もっと地元に権限を移してもらいたい。国は地方へのバックアップに徹してほしい。東日本の被災地でも首長の大半がそう考える。「改憲より国の災害対応の検証をすべき」という奥山恵美子仙台市長の指摘を、国や自民党は真摯(しんし)に受け止めねばならない。

 災害への対応は政府でなく地元が主役であるべきだ。それを改憲の理由とするのは無理がある。

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