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 体外受精による受精卵の染色体異常を調べる「着床前スクリーニング」という検査がある。異常のない受精卵を選んで子宮に戻せば、流産の予防につながると期待される。新しい生殖補助医療の手法だ。

 日本産科婦人科学会(日産婦)は先日、名古屋市立大など全国6施設でこの検査の臨床研究を行うと発表した。対象患者の登録を進め、早ければ3月から実施するという。

 体外受精は、子どもができにくいカップルが希望を託す医療として普及しているが、受精卵の着床率の低さが課題だ。流産を繰り返せば女性の心身の負担は大きくなる。

 臨床研究は、流産の予防にどの程度有効かを確かめる目的で、倫理委員会がゴーサインを出した。有効性が確認されれば、流産の心配のある女性には朗報となるだろう。

 不妊治療の医師らでつくる学会によると、流産の6~7割は染色体異常が原因とされる。検査では、受精卵の初期段階で細胞の一部を取り出し染色体の数を全て調べる。

 ただ、それによって、流産の可能性だけでなく、染色体の異常が原因のダウン症などの有無や男女の違いまでが分かる。

 何の歯止めもなく行えば、受精卵の判別が障害者の排除や男女の産み分けにつながる恐れがある。「命の選別につながりかねない」と危惧する声が学会内部や障害者団体などから上がる。社会の理解を得る努力を怠ってはならない。

 日産婦は、受精卵の検査を原則禁止し、夫婦のいずれかが重い遺伝病を持つ場合などに限り「着床前診断」として認めてきた。

 しかし、神戸の産婦人科医院が指針に反して検査を実施し、出産した例もあることを5年前に公表した。日産婦が一部医療機関の独走を批判しながらも臨床研究の開始に踏み切った背景には、学会として有効性の検証を迫られた事情がある。

 受精卵の廃棄は胎児の中絶のような母体の負担や危険はない。それだけに「命」を安易に扱う動きが広がらないか、との懸念もある。

 不妊や流産には複雑な要因が関係する。医療技術は進歩したが、検査結果が全てではない。子が生まれる機会をふるいにかける行為がどこまで許されるのかは意見が分かれるだろう。日産婦は国民的な議論を広く呼び掛けるべきだ。

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