社説

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 70年前のきょう、日本国憲法が施行された。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を基本原理とする憲法の下で「戦後日本」の歩みが始まった。

 人間でいえば古希。しかし、憲法は今も「現役」である。昨今の政治情勢が、憲法の掲げる理念と存在意義に改めて光を当てたといえるだろう。

 一方、国会では改憲勢力が数の上で護憲派を圧倒し、改正への地ならしが進む。危ういのは、その流れに私たちがのみ込まれてしまうことだ。

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 昨年11月、衆参両院で憲法審査会の議論が再開された。参院は約9カ月ぶり、衆院は約1年5カ月ぶりだ。これほど長く休眠状態にあったのは、政府、与党にとって不都合な事情が生じたからにほかならない。

 一昨年6月、衆院の審査会で憲法学者3人の参考人質疑が行われた。その際、自民党の推薦者を含む全員が当時審議中の安全保障関連法案を「違憲」と断定したのである。

 予想外の展開に自民党は浮足立つ。国民の批判も強まり、議論を進めることは得策ではないと判断したのだった。

加速する改正論議

 再開されたのは昨年夏の参院選で与党が大勝したからだ。自民、公明に維新などを加えれば衆参両院で3分の2を超え、国会発議の条件が整った。在任中の改憲を悲願とする安倍晋三首相は「いよいよ機は熟してきた。この節目の年に歴史的一歩を踏み出す」と意欲を示す。

 それを受けて政府、与党は流れを取り戻そうとする。本丸は「戦争の放棄」や「戦力の不保持」を定めた9条の改正だが、国民の反発が予想される。そこで抵抗感の少ないテーマを「入り口」に、と知恵を絞る。

 その一つが「緊急事態条項」の議論である。大災害などの際に政府が国民の権利を制限するなど超法規的な措置を取る定めで、今の憲法には規定がない。「対応を協議する余裕のない場合はどうするのか」という主張に賛同する声も聞かれる。

 だが22年前の阪神・淡路大震災で、国の対応は迅速とも柔軟ともいえなかった。むしろ「権限を委ねてほしい」という兵庫県などの要請をはねつけた。

 現場から遠い東京の強権発動に道を開く議論に、被災地の自治体や住民は首をかしげる。

 震災の6年後、当時の笹山幸俊市長は神戸で開かれた衆院憲法調査会地方公聴会でこう訴えた。「大規模な災害には、現場に身近な市町村長が直接災害に対応する仕組みが必要だ」

 同じことを東日本大震災で被災した自治体の首長らも指摘している。必要なのは改憲でなく、災害対策基本法などを最大限活用した救援や復興計画の拡充だ。国は後方支援に徹するべきとの考え方が大勢といえる。

 災害法制に詳しい兵庫県弁護士会の永井幸寿弁護士は政府、与党の対応を「災害を改憲のだしにしている」と批判する。

 今のところ、そうしたもくろみは成功していない。「教育の無償化」や1票の格差是正を理由にした「参院合区解消」についても、共同通信の世論調査では、制度の見直しや法律の整備で対応すべきとする回答が多数を占める。自民党が掲げる「家族の助け合い」義務の明記には8割が反対している。

 ただ、憲法を巡る国民の意識は揺れている。改憲を「必要」とする人が世論調査で6割を占めた。「条文や内容が時代に合わなくなっている」という理由が大半で、回答者のほぼ半数が「9条と自衛隊」を議論すべき項目に挙げている。

 政府が強調する「安全保障環境の変化」への懸念を多くの人が抱く。北朝鮮の核・ミサイル開発などで緊張が高まり、国際情勢が民意に影を落とす。

味わうための努力

 だが一方で4分の3が9条を「戦後、日本が海外で武力行使しなかった理由」と評価している。求められるのは国民の思いを尊重した丁寧な議論である。

 忘れてはならないのは、9割を超える人が「憲法によって自らの人権が守られている」と実感していることだ。憲法は「不磨の大典」ではないが、70年を経てその理念は私たちの意識に着実に根を下ろしている。

 逆に安倍政権での改憲には51%が反対している。政府、与党は憲法解釈を百八十度変更し、集団的自衛権の行使容認に踏み切った。採決の強行など、数の力で異論を封じる姿勢に対する国民の警戒心がにじむ。

 70年前のきょう、神戸新聞は1面に「民主日本の輝く門出」の見出しを掲げた。コラム「正平調」はこんな川柳で締めくくっている。〈香りより味(あじわ)へ新茶のいれ加減〉

 新しい憲法の施行をただありがたがるのでなく、自分たちのものとして生かすことを考えようという呼び掛けだった。

 もはや「新茶」とは呼べなくても憲法の香りは衰えない。必要なのは新しい茶葉に取り換えることでなく、時代に合った味わい方と入れ加減で風味を引き出す、不断の努力ではないか。

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