社説

  • 印刷

 夜通し続いた与野党の国会攻防を経て、組織犯罪処罰法の改正案が成立した。

 過去、国民の反対で3度にわたって廃案となった共謀罪が盛り込まれた。犯罪の実行を罰する日本の刑法の原則を変え、計画(共謀)段階での摘発が可能になる。実現に向け、政府が掲げたのがテロ対策だった。

 どこまで国民の自由や権利は制約されるのか。共謀の有無をつかむ捜査や監視が、私たちの日常の会話やメールに及ぶことはないのか。国民の不安や疑念は膨らんでいる。

 政府は「一般の市民が捜査の対象になることはない」と繰り返すばかりで、納得のいく説明は聞かれないままだ。さらに自民、公明両党などは一方的に審議を打ち切り、禁じ手とされる「中間報告」で採決に持ち込んだ。暴挙と言うしかない。

 社会の根幹をなす民主主義が脅かされている。

      ◇

 成立した「共謀罪」法は犯罪を共謀するだけでなく、その準備行為がないと処罰できない。政府は捜査の対象は組織的な犯罪集団に限定されるとして、過去に廃案となった共謀罪との違いを強調した。

監視が強まる社会

 審議を重ねるにつれ、「一般市民」との線引きが曖昧になった。犯罪集団の構成員でなくても、周辺にいれば捜査の対象になる可能性がある。「捜査対象になった時点で一般市民ではない」との答弁もあった。

 確かなことはまず捜査当局が犯罪に絡んでいるか否かを調べ、認定するということだ。

 そうなると、広く会話やメールの内容を調べる必要が生じる。警察による盗聴と監視が強まる恐れがある。今後、通信傍受の対象範囲を広げるための法改正の動きが出てくることは十分に考えられる。

 その先にどんな社会が待っているのか。どんなメールの文面や電話などの会話が法に抵触するのか、疑心暗鬼になる。そんな心理が広がれば社会は萎縮へと向かう。自首と密告によって刑を軽減することを奨励する条項も盛り込まれた。何も言わない、言えない社会の姿が浮かび上がるようである。

 今回の国会審議で、国民から上がった意見の中に、良心の自由など憲法が保障する権利を記すよう求める声がある。

 しかし、政府は耳を傾けようとはしなかった。その頑迷さは「対話拒否」と言ってもいいだろう。安倍政権が強行採決した法案はいくつもある。それでも特定秘密保護法では、付帯決議で表現の自由への配慮条項が追加された。安保法制では少なくとも審議時間は予定を大きくオーバーした。今回の強行ぶりは際立っている。

 影を落とすのが、安倍晋三首相との不透明な関わりが浮き彫りになった「森友学園」と「加計(かけ)学園」の問題だ。官僚の「忖度(そんたく)」への批判と詳細な調査を求める声は強まるばかりである。

 採決を待っていたかのように、文部科学省は「総理のご意向」と記したとされる内部文書を公表した。しかも追及を避けるかのように、国会の閉会直前にである。姑息(こそく)と言われても仕方がないだろう。

 さらに公明党の意向が重なったとされる。東京都議選を前に、公明党議員が委員長を務める参議院の委員会で、採決強行の荒っぽい光景が広がるのを避けたいというものだ。

国民は蚊帳の外に

 法案の審議が深まることも、幅広い声が反映されることもなく、不安の声が上がる中、与党の数の力と奇策の「中間報告」によって法が成立した。国会の在り方が問われる事態だ。

 何より「国民が主役」であるはずなのに、その国民が蚊帳の外に置かれている。

 神戸出身で「暮しの手帖」の編集長だった花森安治さんは言った。「国家とは庶民である」。テロ対策として何が必要なのか、どこまで自由や権利は制限されていいのか。最終的に判断するのは、私たち一人一人でなければならない。

 「かつてここまで国民と国会が軽んじられた時代があっただろうか」。ノーベル賞受賞者の故湯川秀樹博士らが人道主義と平和主義に立つ有志で結成した「世界平和アピール七人委員会」が先日、発表した緊急声明に危機感がにじむ。今は写真家の大石芳野さん、作家の高村薫さんらが名を連ねる。

 この国の民主主義が岐路に立っている。広く危機感を共有し、声を上げていきたい。国民が主役の原則を守り、政治の過ちを正すために。

社説の最新
もっと見る

天気(6月23日)

  • 29℃
  • 21℃
  • 10%

  • 28℃
  • 17℃
  • 10%

  • 31℃
  • 21℃
  • 0%

  • 32℃
  • 19℃
  • 10%

お知らせ