社説

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 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談がきのう、シンガポールで開かれた。

 最大の焦点だった北朝鮮の非核化について、共同声明は「朝鮮半島の完全非核化を約束」としただけで具体的な中身に踏み込まなかった。

 そのほかにも多くの課題が積み残され、近く開かれる高官級の協議に委ねられることになった。期待外れの感は否めない。

 だが武力衝突寸前まで対立していた両国が、対話の扉を大きく開いた意味は大きい。

 両国はもちろん、日中韓ロの関係国も積極的に協力し、アジアの新たな地図を描く一歩としなくてはならない。

 共同声明で残念だったのは、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言が盛り込まれなかった点だ。

 米国が要求し続け、国際社会も支持する合意の最低ラインとみられていたが、米国側が譲歩したとみられる。

 会談後に会見したトランプ氏によると、金氏は「迅速に履行する」としたという。金氏を「素晴らしい人物」などとも評価した。

 しかし非核化を実現する具体的な時期については触れられなかった。トランプ氏自身「完全非核化には長い時間がかかる」と述べており、北朝鮮の求める「段階的非核化」を、結果的に受け入れた形だ。

 懸念するのは、それが北朝鮮の時間稼ぎに使われ、なし崩しに核保有が既成事実化する展開だ。今後の高官級協議では、CVIDについてもっと突っ込んだ議論をする必要がある。

 その上で、北朝鮮が保有する全ての核関連施設の申告と検証、核物質や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄、国際原子力機関(IAEA)などによる査察といった手順を詰めなければならない。

 北朝鮮が保有しているとされる化学兵器も、その枠に含まれるのは当然だ。

裏切りから信頼へ

 米朝関係はこれまで裏切りの歴史だった。

 北朝鮮は過去に何度も非核化を約束し、見返りの援助を引き出してはほごにしてきた。

 だが今回の合意が過去と異なるのは、最高指導者が直接話し合った結果であることだ。

 会談を通じて、双方に一定の信頼関係を構築できた意義も大きい。

 トランプ氏は制裁は当面続けるとしたが、対話が続く間は韓国との合同演習の中止を約束した。北朝鮮の体制保証も明言した。一方、金氏はミサイルエンジン試験場の閉鎖に言及した。

 朝鮮半島情勢に詳しい木村幹(かん)神戸大大学院教授は「対話が今後も続けば、戦争は起こらない。悪い方向には進んでいない」と述べる。

 北朝鮮は今年4月、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を転換し、「経済建設に総力を集中する」という新方針を打ち出している。

 その直後には、韓国との南北首脳会談に応じた。

 国際社会に積極姿勢をアピールしているのは、開かれた国に北朝鮮を変えていこうと金氏が退路を断った証しと受け止めたい。

 1950年に始まった朝鮮戦争は、3年後に米軍主体の国連軍と、北朝鮮の朝鮮人民軍、中国人民義勇軍の3者が休戦協定を結んだ。しかし、現在も国際法上、戦争状態が続いている。分断国家のベトナムやドイツが統一されたことで、朝鮮半島は冷戦構造が残る世界で唯一の地域となっている。

終戦合意を課題に

 会談の直前、トランプ氏は朝鮮戦争終結の可能性にも言及していたが、合意文書には盛り込まれず、今後の協議への課題となった。実現すればアジアの安全保障の構図も大きく塗り替えられる。

 日本にとって最大の関心事である拉致問題について、トランプ氏は「提起した」と述べるにとどめた。日本が今回の会談の当事者でない以上、これ以上の言及は難しかっただろう。

 安倍晋三首相は拉致問題について「最終的には日本と北朝鮮で話し合わなければいけない」と述べた。

 米朝が対話に大きくかじを切った今、日本もこれまでの北朝鮮との関係を再考する必要があるのは間違いない。首脳同士の会談を実現させて、問題を早急に解決するべきだ。

 朝鮮半島が分断された直接のきっかけは、第2次大戦直後に米国と旧ソ連が分割統治したことだ。だがさかのぼればそれより前の1910年、日本が植民地化した事実に行き着く。

 今年に入っての朝鮮半島を巡る激しい変化に、日本はかやの外に置かれた感がある。だが日本が朝鮮半島の命運に責任を負っているのは歴史的な事実だ。

 北朝鮮の変化の気運をとらえて拉致問題解決の糸口を見いだし、信頼関係を構築する。東アジアの安定と繁栄へ、日本はこれから動きだすべきだ。

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