社説

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 安倍政権が今国会の最重要課題に掲げた働き方改革関連法が、参院で可決、成立した。

 岩盤に風穴をあける-。安倍晋三首相は4年前の成長戦略で、医療や農業とともに雇用分野の規制改革を打ち上げた。今回の法に盛り込まれた「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」をその中核と位置づける。

 高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す内容で、長時間労働や過労死を助長するとの懸念が根強い。労働団体や野党は削除を求めたが、政府、与党が数の力で押し切った。

 審議の過程では、根拠となる厚生労働省データの不備や管理のずさんさも判明した。法案を正当化するための後付けだった感が否めない。

 規制の風穴は誰のためにあけるのか。議論が不十分なまま、官僚は「首相の意思」を忖度(そんたく)して動き、政策検証に不可欠な公文書はなおざりにされる。

 森友・加計問題や自衛隊イラク日報隠蔽(いんぺい)などで露呈した政権の問題体質が集約された法律であり、国会審議であった。

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 2016年10月に明らかになった電通新入社員の過労死で、「働き方改革」に多くの国民が関心を向けるようになった。

 命まで奪う過酷な労働が、著名企業にも浸透していた。残業を減らし、働きやすい環境を整えることの重要性を、社会全体で共有する端緒となった。

 ところが働き方改革関連法案は、罰則を伴う残業時間の上限設定や非正規社員の待遇改善などと高プロ制度を一本化したものだった。

 当初は裁量労働の適用拡大も盛り込まれていた。働き手を守る案と引き換えに、「働かせ過ぎ」を招きかねない施策の受け入れを求めた。

 裁量労働の適用拡大について、首相は国会で「労働時間が短くなるとのデータもある」と答弁した。だが実際は一部データの抽出にすぎず、野党の批判を受け撤回に追い込まれた。

 高プロについても「時間でなく成果で評価される働き方を選べる」と意義を強調したが、厚労省が聞き取りをしたのは、関係者12人だけだった。

 導入ありき。それが大前提と言うしかない。同じ構図は、カジノを含む統合型リゾート施設整備法案にもあてはまる。

 両法案とも、国民が納得できるような合理的な説明に乏しい。共同通信社の世論調査では今国会での成立は不要との回答が7割弱を占める。しかし首相の意向を受けて、政府、与党は成立を最優先する。

 異論に耳を貸さない強硬な政権運営をいつまで続けるのか。これでは政策の多様性や柔軟性を失いかねず、産業構造や社会の重大な変化に対応することは難しい。

言葉が空虚に響く

 直近の世論調査では、安倍内閣の支持率と不支持率は拮抗(きっこう)する。相対的に若年と中年の男性で支持が高く、中年と高齢の女性は低い。女性全体の支持率は男性を8ポイント下回る。

 内閣不支持の理由は「首相が信頼できない」が半数弱を占める。首相の政治姿勢に厳しい目が向いている証しではないか。

 4月に発覚した財務次官のセクハラでは、事実認定や処分に手間取った上、麻生太郎財務相は被害者をおとしめる発言をした。だが首相は事態収拾を麻生氏に任せ、前面に立たなかった。

 副総理の麻生氏は、首相の盟友でもある。「お友達内閣」の延命を、働き方改革や女性活躍に密接に関わるセクハラ撲滅より優先したと国民は受け止めただろう。

 高プロに反対する過労死遺族団体が面会を求めても、首相は拒んだ。改革の風穴は、命を奪うような働き方にこそあけるべきであるのに、当事者の声に真摯(しんし)に向き合わないようでは、「活躍」「改革」「革命」といった言葉が空虚に響く。

国会は責務果たせ

 働き方改革法には47項目の付帯決議がなされた。高プロを導入する全事業所の立ち入り調査や、対象者の同意確認を1年ごとに求めるなど、問題点の多さを与党も認めたといえる。

 高プロの対象業務について政府は金融ディーラーや研究者などを想定するが、詳細は法成立後に厚労省が省令で定める。対象がなし崩し的に拡大しないよう、与野党は制度設計や運用に目を光らせる必要がある。

 強硬な政権運営は、国会の権威も低下させている。森友・加計問題では財務省が改ざん文書を提出し、首相らの答弁の信頼性を揺るがす文書も見つかった。国会は与野党の枠を超えて行政府をチェックし、必要なら是正させる責務を果たさねばならない。

 なによりもまず、安倍政権が自らの姿勢を改めるべきだ。さまざまな意見に耳を傾け、疑問や反論にていねいに答える。その上で国民に理解を得られるよう審議を積み重ね、政策の中身を臨機応変に見直す。

 そうした姿勢に立ち返らなければ、国民の政治不信は募るばかりだ。

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