社説

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 避難所となった公民館や体育館の硬い床で、折り重なるように雑魚寝を強いられる。プライバシーを考慮する余地はない。しばらくは温かい食事にもありつけない。地震や水害など災害が起きるたび、被災地で繰り返されてきた光景だ。

 非常事態なので仕方ない-。24年前の阪神・淡路大震災で同じ境遇にあった私たちも、そう思っていないだろうか。

 その認識を改めたい。避難生活で体調を崩し、命を失う被災者が後を絶たないからだ。

 全国の自治体で、大規模災害に備えた避難所の整備が進んでいるが、数だけでなく、「質」も高める必要がある。

    ◇

 被災地のまちづくりを支援する認定NPO法人「まち・コミュニケーション」(神戸市)の宮定章代表理事は昨年、災害研究者らでつくる「避難所・避難生活学会」の一行に同行し、イタリアの災害対策を視察した。

 何より驚いたのは、日本と格段に異なる避難所だ。

 トイレと簡易ベッド、そして1時間に千食を供給できるキッチンカーの3点セットがテントと共に現地に送り込まれ、災害発生直後から温かい食事が出るところが多い。8人用のテントには、プライバシーに配慮した間仕切りがついている。

 3点セットは1地域に最低で250人分がイタリア全土に配備され、6万人の被災者に対応した例もあるという。

 イタリアも地震の備えを進めている。しかし、2016年の大震災では、耐震基準を満たさない建物や手抜き工事が被害を広げ、政府への批判が高まったこともあった。

 それでも同じ地震国の日本とは、避難所のあり方に大きな差がある。「文化の違いもあるが、日常に近い生活ができるよう被災者に配慮している点は、日本も参考にすべきだ」と宮定さんは指摘する。

「尊厳ある」生活へ

 紛争地や被災地の人道支援について、複数の国際機関がまとめた「スフィア基準」という指標がある。避難所の面積は1人あたり3・5平方メートル、トイレは初期段階で50人に1基とし、女性用は男性用の3倍設ける、などの最低基準を掲げている。

 東日本大震災では多くの避難所がこの基準を満たさず、「難民キャンプより劣悪」との批判を浴びた。その後の法改正で、避難所の環境改善が自治体の努力義務となった。

 兵庫県は避難所の運営指針で1人3平方メートルを目標値とし、13年には福祉避難所や衛生的なトイレの設置などを加えた。段ボールを使った簡易ベッドを発災後に素早く確保できるよう、業界団体と協定を結んだ。

 スフィア基準で着目すべきは数字だけではない。理念として掲げる「被災者は尊厳ある生活への権利を有する」との認識が、日本の災害対策で後回しにされていないか。

 個々の被災者が心身の傷を癒やして活力を取り戻さなければ、生活再建や地域の復旧復興は前に進まない。

 そのためには避難のストレスを減らし、尊厳ある生活を送れるような支援が不可欠だ。

民間の力も生かせ

 避難所の確保や運営は、自治体の責務となっている。しかし救助や復旧で混乱を極める中、できることには限りがある。

 イタリアでは災害用設備の管理や避難所での設営を、専門研修を受けた全国約80万人のボランティアが担う。被災地で活動するため、有給休暇の取得が法で認められている。

 さらに日本と異なるのは、災害対策を専門に扱う省庁の存在だ。被災地支援を統括する権限を持ち、3点セットを送り込む。対策会議には官公庁とともにボランティア団体も加わる。

 宮定さんは、ボランティアの活動も見学した。そろいの制服姿で笑みを浮かべ、「困ったときはお互いさまだから」と話していた点が印象に残っている。

 「お互いさま」は日本の災害ボランティアにも共通する。官と連携して民間の力を生かす方策を描き、良質の避難所整備を実現させたい。

 兵庫では地域住民と大学生が中心となり、実地訓練などを通じて避難所のより良い運営を探る取り組みも始まっている。

 南海トラフ地震では、犠牲者が最大32万人、県内では2万7千人に上ると予測されている。避難所が現状のままでは関連死を招く恐れがある。

 災禍を乗り越え、次代へ歩みだすために、生き延びた被災者を守る手だてを早急に構築しなければならない。

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