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 平成に代わる新しい元号は、「令和(れいわ)」と決まった。

 いにしえの歌人が梅の花を詠んだ万葉集巻五の序文「初春令月、気淑風和(初春(しょしゅん)の令月(れいげつ)にして、気淑(きよ)く風和(かぜやわら)ぎ)」からの引用だ。中国古典からの採用が慣例とされてきたが、日本の古典が原典とされたのは確認できる限り初めてという。

 「令月」には「何をするにもよい月」という意味がある。平和国家の道を歩んだ戦後日本の「和」の心を引き継ぎ、内外に発信する時代としたい。

 そうあるべきだし、そうでなくてはならない。

      ◇

 新元号は天皇陛下の退位に伴い、皇太子さまが新天皇に即位する5月1日に施行される。

 安倍晋三首相は「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ」との願いを述べた。令和がどんな印象を持たれる元号になるかは、これからの私たちの営みにかかっている。

 明治、大正、昭和、平成。

 近代以降、今日までの元号を改めて振り返れば、それぞれに異なるイメージが浮かぶ。

 明治維新で新しい国家体制がつくられ、日本は西洋諸国に学びながら「殖産興業」「富国強兵」の道を突き進んだ。

 作家の司馬遼太郎氏は「坂の上の雲」のあとがきで書く。

 「ともかくも近代国家をつくりあげようというのがもともと維新成立の大目的であったし、維新後の新国民たちの少年のような希望であった」

 開花期の時代解釈として一定の影響を与えた作品だ。

 大正は「自由」や「文化」の印象が色濃い。約14年の短期間だったが、「大正デモクラシー」という言葉が生まれ、多彩な芸術が花開いた。

 そして昭和。軍部の暴走で時代は暗転し、戦争に至った。戦後は復興と高度成長を成し遂げる。起伏に富む時代だった。

 平成はバブル崩壊で始まり、大災害が相次いだ。一方で多くの人が支え合いや絆の重要性を感じたともされる。

 時代を特徴づける思想や意識を「時代精神」と呼ぶ。元号は各時代の精神を映している。

 平成は近代以降で初めて戦争を経験しなかった。少子高齢化や人口減少などの課題と向き合いつつ、力を合わせて穏やかで寛容な時代精神を育みたい。

国民主権の下で

 ただ、元号はどれほど国民のものとなったのか。

 元号法は「元号は、政令で定める」と規定する。今回、政府は国文学や日本史学などの専門家に原案の考案を依頼し、候補を六つに絞って有識者懇談会や衆参の正副議長に諮り、閣議決定した。現行憲法下で初めて行われた昭和から平成への改元を踏襲した形である。

 国民は何も知らされず、待たされ続けた。私たちもつい「元号は上が決めるもの」と思いがちだ。それでは政府の決定を国民は押し頂くだけになる。

 もともとは元号は天皇の「御代(みよ)(治世)」を表す。だがその考え方は憲法の理念である国民主権にそぐわない。国民が自分たちのものと思えるような元号の決め方、在り方を模索する必要があるだろう。

 天皇制の歴史に詳しい本郷和人東大教授も「上から押し付けるのは健全ではない」と指摘する。前回の改元時も「新元号が空から降ってきたような違和感があった」と振り返る。

 元号については「文化として守るべき」という声がある。一方で、昭和、平成、令和などが混在し、西暦換算がますます複雑になるのは避けられない。

 法施行規則の改正で運転免許は今後、西暦が併記される。この機会に書類を西暦表記に変更する企業や経済団体の動きもある。利便性や国際化などの観点から、経済、社会活動では西暦表記がさらに広がりそうだ。

みんなで考える

 神戸新聞社のアンケートでは、元号を「必要」「どちらかといえば必要」とする人が5割を超えた。不要派も4割強に上ったが、かつてのような強い反対や拒否反応は見られない。

 今は「元号があっても特に問題はない」という軽い受け止めが主流だと、本郷教授はいう。民主主義の時代にふさわしく、どうあるべきかもみんなで考えればいいと提言する。

 天皇陛下は「常に国民とともに」との願いを胸に平成の30年間、象徴としての務めを模索してこられた。その思いは新天皇にも引き継がれるだろう。

 それに合わせて、より国民に近い元号とは何かを検討する時期に来ているのではないか。

 今回は生前退位に伴い、混乱を避けるために元号が事前公表された。あと1カ月となった平成の日々、元号について思いを巡らせる契機としたい。

 元号選定に関する公文書は原則、全面公開して広く国民の議論に委ねるべきだ。平成改元時の公文書も、大半が2024年3月まで非公開とされているが、どちらもできるだけ早期に開示しなければならない。

 秘密主義は元号と国民との距離を遠くするだけである。

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