社説

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 新しい天皇陛下が即位され、令和(れいわ)の時代が始まりました。

 きのう、陛下は「憲法にのっとり、日本国および日本国民統合の象徴としての責務を果たす」と述べられました。

 思い返せば、父親の上皇さまも30年前の即位後の儀式で「憲法を守って責務を果たす」と明確に宣言されています。どちらも主権者である国民への「誓い」であることに、改めて思いをいたすべきでしょう。

 ともに日本と世界の「平和」に言及されたのも、戦争の歴史の反省を踏まえた思いを共有されているからに違いありません。そして新元号の令和にも、同じ思いが読み取れます。

    ◇

 令和の考案者は誰なのか。4月の新元号発表後、社会の関心の多くはその点に移りました。本人は認めていませんが、どうやら大阪女子大元学長の中西進さんがその人のようです。

 和歌集「万葉集」の研究では第一人者で、姫路文学館の初代館長を務めるなど、兵庫にもゆかりがある方です。

 出典について、政府は「万葉集」巻五に収録された「梅花の歌三十二首」の序文「初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ」としています。「令月」は「万事をなすのによい月」の意味で、「令」と「風和ぎ」の「和」を組み合わせて「令和」-。

 中西さん自身「『令』は発音が美しい。この文字は『令嬢』や『令夫人』のように「和」を形容する」と語っています。

 「令」の文字には「命令をイメージさせる」という声もありますが、「こじつけだ」と反論もしています。

 「万葉集は令(うるわ)しく平和に生きる日本人の原点だ」というコメントを出版社にも寄せていることからも、よほど深い意味を込めた言葉なのでしょう。

「十七条憲法」の精神

 その思いを読み解く手掛かりが、著書の「うたう天皇」(白水社)にあります。

 新春恒例の「歌会始(うたかいはじめ)の儀」を思い浮かべてください。なぜ和歌を詠むことが天皇の重要な仕事なのでしょうか。

 中西さんによると、答えは社会に平安をもたらすためです。

 日本には古来、言葉に霊力が宿るという考え方があります。「万葉集」などの和歌集編さんを天皇が命じたのも「和歌の力で天下の平和を実現できる」と信じられていたからでした。

 その際に理想とされたのが、聖徳太子が制定した十七条憲法の精神だったそうです。

 当時は朝鮮半島への出兵など戦乱が影を落とす時代でした。「和をもって貴しとなす」で始まる十七条憲法は、そうした時代に幕を引く「平和憲法」「戦争終結の宣言」だったと、中西さんは解説しています。

 「万葉集」と新元号の令和はともに「平和」への祈求が原点にある。その精神や願いを今こそ引き継いでいかねばならない。それが新元号の考案者の心であるに違いありません。

政治の思惑とは別に

 平成は日本にとって戦争のない時代でした。ただ、ここ数年は「平和国家」の国是にかかわる動きが相次いでいます。

 一つの例が、憲法9条の制約で「できない」とされた集団的自衛権の行使です。安倍政権は憲法解釈を転換し、憲法学者らの「違憲」の指摘も押し切って容認に踏み切りました。

 そもそも安倍晋三首相にとって戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めた9条の改正は「悲願」とされ、改憲の動きは令和の時代に持ち越されます。

 一方、中西さんは9条改正に反対する市民運動の賛同者に名を連ねるなど、護憲の立場を明らかにしてきました。万葉集の「平和の心」を大切に思う学者の良心がうかがえます。

 令和は、新元号制定の最終過程で「本命候補」に浮上したそうです。安倍首相が中西さんの案を強く推したのは意外な巡り合わせですが、中国の古典でなく国書「万葉集」からの出典にこだわった結果でしょう。

 いずれにせよ、元号は時の政権の道具ではありません。私たちは政治の思惑とは別に、平和の理念をしっかりと次の世代に引き継ぐ責任があります。

 政府は「令和」の英語訳を「ビューティフル・ハーモニー(美しい調和)」としています。令和が本当に「美しい調和」を実現する時代になるかどうかは、これからの国を挙げての不断の努力にかかっています。

 きのうのお言葉で「国民の幸せと国の一層の発展、そして世界の平和を切に希望します」と述べられた新陛下も、同じ思いでおられることでしょう。

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