社説

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 日本国憲法はきょう施行72年を迎えました。安倍晋三首相は「令和という新しい時代のスタートラインに立ち、国の未来について真正面から議論すべき時に来ている」と改憲の意欲を示しています。

 しかし、憲法を変えるかどうかを決めるのは私たち国民です。憲法は何のためにあるのか。なぜ大切にしなければならないのか。「新時代」の高揚感にのまれず、難しいからと遠ざけず、素直に向き合うことから始めたいと思います。

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 憲法を子どもにも分かるやさしい表現で伝えよう。そんな試みが広がっています。

 憲法=檻(おり)、権力=ライオンに例えた解説書「檻の中のライオン」(かもがわ出版)は、2016年の発行から増刷を重ね、すでに13刷、約2万部に達しました。出版社によると憲法関連本では異例の売り上げといい、昨年は絵本にもなりました。

 例えば、権力を法で縛る立憲主義の考え方は「私たちにかみついたりしないように、ライオンには檻の中にいてもらう」、国民主権は「私たちを守る檻を作るのは私たち」、個人の尊重、幸福追求権(13条)は「なにが幸せかは人それぞれだから、ライオンはとやかく言ってはいけない」といった具合です。

身勝手なライオン

 安倍政権が提起した改憲の発議要件を緩和する憲法96条改正論は「檻をやわらかくしたいという」、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認するのは「力まかせに檻を壊す」、国民の知る権利を侵す特定秘密保護法は「檻にカーテンをつける」行為とされ、身勝手なライオンの典型といえるでしょう。

 著者の弁護士楾大樹(はんどうたいき)さんは全国の講演に引っ張りだこです。「檻(憲法)のありがたみが感じられないのは、その役割を果たしているから。ライオンが檻を出て暴れ、ありがたみを痛感したときには手遅れかもしれません」。その指摘が実感として伝わります。

 大阪市ではきのう、遊びながら憲法を学ぶボードゲームの体験会が開かれました。憲法のビンゴゲームなどを制作したグループ「明日の自由を守る若手弁護士の会」が、まちづくりコンサルタント安藤哲也さん=川崎市=と共同開発しました。魔法使いが憲法を消してしまった日本の各地で起きる問題を、手に入れた憲法の条文カードで解決し、まちを救うゲームです。

 現実にも故郷で暮らす自由を奪われた原発事故の避難者、選挙で何度反対の意思を示しても届かない沖縄県民、夫婦別姓や同性との結婚を認めてほしい人など「ここには憲法がない」と苦しんでいる人たちがいます。想像力を働かせ、自分の問題として考える。ゲームはそんな機会になるかもしれません。

 今の憲法がまだ「新憲法」と呼ばれていた1955年、制定作業に深く関わった憲法学者佐藤功さん(1915~2006年)は、当時の子どもたちのために一冊の本を書き残しました。

誰が守らせるのか

 3年前に復刻新装版が刊行された「憲法と君たち」(時事通信社)です。成蹊大学などで教授を務めた佐藤さんは、平和と民主主義、基本的人権の尊重という憲法の三つの理念は、多くの人々の犠牲の上に得られたもので「この三つはどうしても変えてはならない」と説きます。

 書かれたのはサンフランシスコ講和条約発効の3年後、改憲派と護憲派が激しく対立していました。改憲派が振りかざす「押しつけ憲法論」や復古的な主張に危機感を抱いたのでしょう。「日本が新しい国に生まれかわるために、今のような憲法がどうしてもつくられなければならなかった」と、優れた内容に目を向けるよう訴えます。

 全ての人の幸福が、戦争や権力者によって再び踏みにじられることのないようにと新憲法はつくられた。だから憲法が「君たちを守る」。そう語りかける一方で、こう警告します。

 憲法を一番守らなければならない国会や内閣が「多数決の悪用」や「へりくつの解釈」で法律や政策をつくり憲法を破ろうとすることもある、表向きは守っているようなふりをして-。その懸念が、今は現実です。

 では、誰が憲法を権力者に守らせるのでしょう。投票や世論の力で「君たちが憲法を守る」のだと佐藤さんは力説します。

 令和には、少子高齢化がさらに進み、人々の価値観は多様化していくでしょう。誰もが生きやすい社会を目指した憲法が一層輝きを増す時代を、みんなで築いていかねばなりません。

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