社説

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 日本は世界で最も森林資源に恵まれた国の一つです。南北に長い国土の山脈がもたらす雨や雪が多彩な樹種を育み、人々はその特性を見極め、建材や用具、燃料に使い分けてきました。そうした木の文化を育んだ森林が荒廃の危機にあります。

 戦後のガスや電気の普及で薪(まき)や炭の供給源だった雑木林は放置され、住宅用に植えたスギなどの人工林は伐採が遅れて水害の要因となっています。

 防災や地球温暖化防止のためにも木々を上手に活用し、二酸化炭素の吸収源となる若い木を育てる。そうした「緑の循環」について考えてみましょう。

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 荒れた森林の手入れを目的とした「森林環境税」の法律が、国会で成立しました。2024年度から1人当たり年千円が徴収され、約600億円の税収が森林面積などに応じて県や市町村に配分されます。森林再生を急ぐため、国は自治体への配分は19年度に先行して始めます。

 新税の目的の一つが人材育成です。林業で働く人は国内で4万5千人。兵庫県内では20年前の約半分の800人にすぎません。地球環境や防災の視点から、森林の新しいデザインに関わる人材も求められています。

多様な価値を学ぶ場

 自治体が「林業大学校」を設ける動きが広がっています。林野庁によると、18年4月時点で全国で17校に増えています。

 兵庫県は17年、宍粟市に「森林大学校」を開校しました。「林業とともに森林の多様な価値と役割を学ぶ場」としています。1学年定員20人で、2年間に林業機械や木材加工のほか、里山の生物多様性、獣害対策やジビエ料理なども学びます。

 今春には、初めての卒業生14人が木材関連の団体や企業、公務員、大学進学など森林や林業に関わる道に進みました。

 「私たちは50年前の人が植えた木を使っている。50年後の人が木を使えるよう、いっしょに考えてほしい」。研修に協力する木材関係業者がこう話すのには「森林の少子高齢化」が深刻化していることがあります。

 戦後、スギやヒノキは間伐して販売しながら苗木を育てる想定で大量に植林されました。木々は十分に育ちましたが、価格が安いので伐採が遅れ、更新は進んでいません。このため、県内の人工林は林齢10年以下の割合が0・3%しかありません。人が入らなくなった里山の樹木も高齢化が進んでいます。

 森林資源が大量に蓄積された状況とも言えますが、使い方に懸念も広がっています。全国で急増する木質バイオマス発電所の燃料に、良質な木までが持ち込まれてしまっているからです。森に対する関心が薄れ、木の価値が分かる人が減ってしまったのが大きな要因です。

 住宅や家具、インテリアに使える価値のある木を、それに見合う価格で流通させなければ、新しい木を育てる持続可能な森の経済循環は生まれません。

 京都や高知の林業大学校で講義する木材コーディネーターの能口秀一さん(丹波市)は「木を目利きできる人を増やさないといけない」と話します。能口さんは森の健康を回復し、価値を高める活動を広げています。

地産地消で緑の循環

 まず森を健康診断します。木が過密だと光が入らず良い木が育ちません。災害の要因にもなってしまいます。

 次に、節のない良木を作るのに欠かせない枝打ちの状況や、樹木の曲がり具合などを調べ、森全体の資産価値を試算します。手入れすれば将来どれだけ価値が高まるかも考え、山主らに意欲を高めてもらいます。

 緑の循環の最大の鍵となるのが消費です。兵庫県は消費者が多いだけに「木の地産地消」は特に重要です。

 例えば、六甲山の樹木をふもとの街につなぐ。価値の高い木は高級料理店やブランド店などのカウンターやテーブルに。また薪や炭を作ってピザ料理店や焼き鳥店に供給するほか、公共施設や農家などで薪ストーブやボイラーを導入する-。

 街の環境ブランドを高めながら森林を健康にする取り組みにも、新税は活用できます。

 国は新税を財源に、企業などに大規模伐採を委ねる政策を進めていますが、発展途上国のような乱伐につながるとの指摘もあります。防災のための新税が、水害を招くはげ山を増やす結果となってはなりません。

 新税をどう使うか。地域の意識とアイデアが試されています。きょうの「みどりの日」に地域の森のことを思い巡らせてみてください。

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