社説

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 国連の「家族農業の10年」が今年スタートしました。貧困や環境破壊、食料安全保障など地球が抱える難題を解決するために、食の営みの基本である家族農業の価値を見直そう-。国連はそう各国に呼び掛け、支援する施策の推進と知見の共有を求めています。

 背景には、大量の化石燃料と化学物質を使う大規模な農業による地球温暖化など、多くの深刻な問題があります。

 地球に暮らす一員としてすべきことを考えるために、自然と食の接点である家族農業に目を向けていきましょう。

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 労働の多くを家族で営む家族農業は日本で98%を占め、欧米でも割合はほぼ同じです。2ヘクタール未満の小規模な家族農業が食料の8割以上を生産しています。

 再評価されだしたのは2007~08年の世界的な燃料高騰や食料危機の時でした。経済のグローバル化による負の部分に世界の視線が注がれ、森林破壊や生物多様性の喪失を招いた工業的農業への批判の声が高まりました。

工業的農業への批判

 広大な農地で農薬や化学肥料を多用する工業的農業は、食料増産や飢餓の解決策として世界で導入されました。しかし必要とする人に一向に食料が行き渡らず、豊かな国の食品廃棄や貧富の差は拡大しています。

 一方で、長距離輸送や農薬・化学肥料の製造に膨大な化石燃料を費やすため、温暖化の最大要因との指摘もあります。化学物質の大量使用による環境や食への悪影響も見逃せません。

 こうした実態が明らかになり、国連は対極にある小規模な家族農業を重視し、14年を「国際家族農業年」としました。さらに世界の農政転換の必要性を明確にするため「家族農業の10年」を打ち出したのです。

 環境や食の問題を考えるためのモデルとして注目される農場が兵庫にあります。

 養父市の「わはは牧場」は、但馬牛や豚を地元の安全な餌で育て、無農薬の米や小麦を栽培しています。併設する「shop&cafeがぁぶぅ」は、自家製の肉や加工品が食の安全・安心を求める人に人気です。

 「自分が食べたいものを作るうちに今の形になった」。妻の美由紀さんと経営する上垣康成さんはそう振り返ります。

 原点は、米アレルギーの上垣さんのために父が始めた無農薬のアイガモ稲作でした。原因が米でなく、農薬などの化学物質にあると考えたのです。

 除草剤を使わずに雑草をアイガモに食べさせ、安全な米と肉を同時に生産する農法ですが、専門の食肉処理場が近くにないため自力で建設しました。

 上垣さんは次に豚の飼育を始めます。市販品には添加物が多くてあきらめていたベーコンやハムを食べたかったからで、餌に大屋高原の有機野菜くずなどを使うことで実現させます。

化学物質のない食を

 上垣家の農と食の営みに魅了されて移住した人がいます。東京の出版社で農業専門誌の記者をしていた山●友香さんです。

 畜産が専門でしたが、5年前に訪れ、「常識と違うのが面白く驚かされた」と笑います。

 まず分業が当たり前と思っていた生産、加工、販売を一体経営している点です。高収益の鍵は小規模経営にありました。

 国が進める大規模化が農業では「常識」ですが、安い輸入品との競争や投資の借金に苦しむ生産者は少なくありません。

 一方、わはは牧場では、必要な手間や手に入る地元産飼料の量に応じた経営で、牛と豚が約10頭ずつ、アイガモ200羽と小規模です。売り上げは家畜を市場出荷した場合の3倍。餌代は輸入品と違って為替変動に左右されません。「子どものころ農業は収入が少ない産業と思い込んでいたが、誤解でした」

 そう語る上垣さんは太陽光発電やまき燃料の器具、省エネを取り入れた自然エネルギーの暮らしと経営も進めています。

 農山村の多くを占める中山間地には、アイデアや技が生きる小規模経営が適しているのではないでしょうか。食の安全や環境にこだわる農家が増えることは消費者のためにも必要です。

 上垣さんはアレルギーなどに悩む多くの消費者と出会う中で、農薬や添加物など化学物質がまん延する食の姿が見えてきたと話します。

 農と食の在り方は、地球環境と人の健康の将来に直結しています。そのことをもっと思い描かなければ、子どもたちに安全な食と持続可能な社会をつなぐことはできません。

※●は崎の異体字、立つ崎

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