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 鹿児島県大崎町で1979年、男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第3次再審請求で、最高裁は殺人と死体遺棄の罪で服役した原口アヤ子さんの請求を退け、裁判のやり直しを認めない司法判断が確定した。

 逮捕から40年間、一貫して無実を訴え続けてきた原口さんは92歳となった。「これが最後」と臨んだ再審請求だったが「救済の扉」は開かなかった。

 争点は、弁護側が新証拠として提出した「事故死の可能性」を示す法医学鑑定と、共犯とされる元夫らの供述の信用性に関する心理学鑑定の評価だった。最高裁はいずれも「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認めず、これらを基に再審を認めた鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部の決定を取り消した。

 新旧証拠を総合的に検討し、有罪とするのに疑問があれば再審を開始すべき-。最高裁自身がそう判示した75年の「白鳥決定」以降、地裁、高裁の開始決定が初めて覆された。

 近年は最新の科学的証拠によって自白の信用性が否定され、判決が覆るケースが相次ぐ。

 栃木県の足利事件や東京電力女性社員殺害事件は、新たなDNA鑑定が決め手となり再審無罪が確定した。3月には、DNA鑑定ほど確実な証拠がなかった滋賀県の「呼吸器外し事件」で、死因鑑定書などに基づき再審開始が決定した。

 最高裁が今回、新証拠に厳格な評価を下したのは、ハードルが下がりつつあるとされる再審開始の基準に一石を投じようとする意図もあったのだろう。

 だが、大崎事件はこれまでに地裁と高裁支部で計3回、再審開始の決定が出ている。原口さんの関与を示す直接の証拠はなく、確定判決を支える根拠が不十分だったのは明らかだ。

 最高裁は、新鑑定の証明力を厳しく判断する一方、共犯者らの供述の変遷など高裁支部が指摘した矛盾点には踏み込まないまま「自白の信用性は強固だ」と結論付けた。

 「疑わしきは被告人の利益に」の原則に沿った決定なのか疑問が残る。自白偏重の捜査が冤罪(えんざい)を生んできたことへの問題意識も感じられない。この決定が、無実の人を救う最後の道を狭めないことを願う。

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