社説

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 安倍晋三首相の6年半に及ぶ政権運営に、国民は一定の評価を下した。きのう投開票された参院選で自民、公明の与党が改選過半数を獲得した。「安倍1強」体制は継続し、今秋には歴代最長政権に手が届く。

 一方、首相が悲願とする憲法改正に前向きな勢力は国会発議に必要な3分の2を割った。

 政権の集大成として、安倍首相は安定した政治基盤をどう使い、何を実現させるのか。その力は自らのレガシー(政治的遺産)づくりのためでなく、国内外に山積する難題の解決に注がなければならない。

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 「改革を前に進めるのか、再びあの混迷の時代へと逆戻りするのか」。参院選公示を前にした会見で首相は最大の争点について、こう述べた。

 「あの時代」とは、自民党が野党に転落した民主党政権時代を指す。ほかにも首相は、ことあるごとに民主党政権を「悪夢」と呼ぶ。選挙戦では、民主党政権中枢にいた立憲民主党の枝野幸男代表を「民主党の」と言い間違えては言い直すのが演説の定番となった。

 国民の期待に応えられず短命に終わった前の政権をおとしめることで、自分の政権の長期安定ぶりをアピールする。歴代最長に名を刻もうという首相に、この狭量な振る舞いがふさわしいとは思えない。

混迷を抜け出したか

 そもそも、安倍政権の下で日本が混迷の時代を抜け出したのかは大いに疑問だ。

 経済は、アベノミクスによって企業収益の向上や雇用改善、税収増加がもたらされた。だが政策目標とした2%のインフレ目標はいまだ達成されず、実質賃金や個人消費は低迷が続く。

 大企業が潤えば家計に富がしたたり落ちてくる、全国津々浦々に恩恵を届ける、という首相の決まり文句も最近は聞かれなくなった。

 日銀が国債を買い支えることで財政は維持されているが、1千兆円を超える借金大国の内実は変わらない。アベノミクスの功罪を総括し、異次元とされた政策を正常に戻す出口戦略を具体的に描く必要がある。

 最大の社会問題である人口減少は歯止めがかからない。東京一極集中も加速する一方だ。

 2025年には団塊の世代が75歳以上となり、社会保障費が大きく膨らむ。財源となる消費税について、首相は税率10%への引き上げを2度先送りした。今回は増税を明言して臨み、10月に実施される見通しだ。

 しかし、少子高齢化を見据えた議論は深まっていない。

 「老後資金2千万円」問題を提起した報告書の受け取りを拒み、年金制度の健全性をチェックする5年に1度の財政検証の公表時期も選挙後とした。

 不都合な現実から目を背け、議論を封じる。こうした政権の姿勢こそが国民の不安を高めていると自覚すべきだ。

 長期政権の強みがある外交分野でも、首相の外交力を冷静に評価する時期に来ている。

 蜜月関係が自慢のトランプ米大統領は、日米安全保障条約について「不公平だ」と言及し、貿易交渉と併せて日米関係に不透明感が漂い始めた。

 日韓関係は改善の道筋が見えず、日本が歩み寄る姿勢に転じたロシアとの北方領土交渉や日朝交渉にも進展の兆しがない。

議論重ね合意形成を

 1強政治の下、国会論議の形骸化も進んだ。

 この6年半、政府、与党が多弱野党の足元を見て丁寧な議論をしようとせず、数の力で法案成立を強行する国会運営が定着してしまった感がある。

 安倍首相は選挙戦で「議論する政党を選ぶのか、まったくしない政党を選ぶのか」と野党への挑発を繰り返した。憲法論議が進まないことを批判した発言だが、まず改めるべきは政権側の国会軽視の姿勢である。

 森友・加計(かけ)学園を巡る疑惑、統計不正問題などでは、野党が求める臨時国会召集や予算委員会開催をはねつけてきた。都合の悪い議論を避けてきたのはむしろ与党側である。

 世論調査では、安倍政権下での改憲への反対が賛成を上回る状況が続いている。首相は改憲論議に支持を得られたとの考えを示したが、数の力で強引に押し切る手法を国民が懸念していることを忘れてはならない。

 安倍政権が直面するのは、簡単に答えが出ない難問ばかりだ。さまざまな意見の対立が予想されるが、異なる意見を調整し、議論を尽くして合意を見いだすのが政治の役割である。

 本当の強さは、異論を敵視して排除するのでなく、批判勢力を含めた国民全体を包み込むものだ。自分の思いを遂げるためでなく、持続可能な未来へのビジョンを描き困難を打開するために生かしてもらいたい。

 選ばれた参院議員は、解散におびえることなく6年の任期を全うできる。参院が「良識の府」にふさわしい役割を果たすため、日本が直面する中長期の課題に向き合い、議論する国会を取り戻さねばならない。

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