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 「京都アニメーション」の放火殺人事件で、京都府警が犠牲者25人の実名を明らかにした。今月初めに発表した10人と合わせ、これで亡くなった35人全員の身元が公表された。

 凄惨(せいさん)な犯行から1カ月以上たっても衝撃と憤りは消えない。「ご遺族が肉親の死を受け入れるのに時間がかかった」。この時期に公表した理由を府警はそう説明する。全員の葬儀が終わったなどの事情も挙げた。

 遺族の多くは最後まで公表に同意しなかったそうだ。しかし事件の重大性や社会的関心の高さを考慮し、公表に公益性があると判断したという。

 実名報道を原則とするメディアの考え方とも一致する対応である。公表に理解が得られるよう、報道する側も信頼を高める努力を重ねる必要がある。

 名前は典型的な個人情報で、意思に反して公表されないよう保護するのが原則だ。ただ、個人情報保護法は情報の有益な活用とのバランスを図るとしており、報道機関への適用を除外する規定を設けている。

 取材や検証作業を進める上で実名は欠かせない要素である。人物像も含めて具体的に事実を伝えることが、問題の重大性や背景を考える糸口になる。

 一方で過熱する取材への批判が高まっているのも事実だ。メディアは遺族の心情を丁寧に聞き取るなどの配慮に努め、姿勢を自ら見直さねばならない。

 今回、府警は早い段階で実名開示を決めた。警察庁は「遺族の同意が必要」としたが、自主的に踏み切ったとされる。

 だが、警察が公表について判断することは、大きな問題点をはらんでいる。匿名にすべきかどうかは本来、報道する側が責任を持って考えるべき課題だ。

 神奈川県の障害者施設で起きた殺傷事件で、地元警察は被害者の大半の実名公表を控えた。関係機関による恣意(しい)的な判断が常態化すれば、都合の悪い情報が隠され、対応が適正かどうかの監視も難しくなるだろう。

 京アニ事件の犠牲者の父親は記者会見で「それぞれに名前がある」「(本人が)確かにいたということを忘れないでほしい」と語った。思いを真摯(しんし)に受け止め、核心に迫るきめ細かな報道を心掛けていきたい。

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