社説

  • 印刷

 大阪大のチームが、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った角膜細胞を、世界で初めて患者に移植した。

 iPS細胞から作った組織の移植は、5年前に理化学研究所(神戸市中央区)などが網膜細胞で実施したのが初めてだ。昨年には京都大が神経細胞をパーキンソン病患者の脳へ移植している。

 今回の移植で注目すべきは、患者の視力が大幅に改善しただけでなく、従来の移植手術で多く見られた拒絶反応などの問題も起きていない点だ。

 手術から約1カ月しか経過していないとはいえ、移植手術を待ち望む多くの患者たちを勇気づけることだろう。安全性や有効性を慎重に見極めた上で、一般的な医療として早期に定着してほしい。

 今回、移植を受けたのは、けがや病気で角膜のもとになる細胞が失われ、失明に至ることもある角膜上皮幹細胞疲弊症の40代の女性で、ほとんど目が見えない状態だった。

 7月下旬、他人のiPS細胞から作製しシート状にした角膜組織を左目に移植し、8月下旬に退院した。手術後、視力は日常生活に支障のないレベルにまで回復しているという。

 角膜移植は、亡くなった人から提供された角膜を用いるのが一般的だが、待機患者は今年3月末時点で、全国で約1600人に上る。一方で、死後に角膜を提供した人は昨年度で約700人にすぎない。

 iPS細胞から作製した角膜の移植が一般化すれば、慢性的なドナー(提供者)不足の解決にもつながりそうだ。

 視覚障害は、社会の高齢化に伴い増えている。年齢を重ねてから視力が低下したり失明したりすると、認知症のリスク要因となる可能性があるとの指摘もある。多くの人が老後を健やかに過ごすためにも、今回の臨床研究の意味は大きい。

 iPS細胞を活用した再生医療は、阪大の心臓病治療や京大の血小板輸血、慶応大の脊髄損傷治療などでも次々と予定されている。今後もさまざまな分野での応用が期待される。

 一歩ずつ実績を積み上げ、成果を共有しながら、大きな跳躍につなげてもらいたい。

社説の最新
もっと見る

天気(10月21日)

  • 24℃
  • 18℃
  • 30%

  • 22℃
  • 12℃
  • 20%

  • 25℃
  • 16℃
  • 50%

  • 24℃
  • 15℃
  • 40%

お知らせ