社説

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 まず運転ありき、の判決だ。

 東日本大震災の大津波による福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長ら3人の東京電力旧経営陣に、東京地裁は無罪を言い渡した。事故を防ぐ義務を怠った過失はなかったと判断した。

 耳を疑うのは、裁判長が判決理由で「津波についてあらゆる可能性を想定し、必要な措置を義務付ければ、原発の運転はおよそ不可能になる」と指摘したことである。

 事故は起こらないとの安全神話が福島の惨事を招いた。その教訓から、新規制基準には航空機テロ対策などが盛り込まれた。国民の大多数も原発には厳しく安全を求めている。そうした感覚と乖離(かいり)した見解だ。

 避難者らが損害賠償を求めた民事訴訟では、東電の過失を認める判決が相次ぐ。経営者の無罪が企業全体の免責にはならない。被害者賠償や廃炉処理、福島の復興などの責務を、東電は全うしなければならない。

 争点の一つは、3被告が津波を予見できたか、だった。

 東電は、2008年には国の地震予測「長期評価」に基づき大津波の襲来を試算していた。だが被告の元副社長は再調査を指示するにとどまった。

 検察官役の指定弁護士は、大津波を予見できたと訴えた。だが判決は国の予測を「信頼性には限界がある」とし、東電側の主張を認めた。

 危険性を具体的に予見できなければ、個人の過失責任は問えない。尼崎JR脱線事故などの司法判断を踏襲したと言える。

 現行刑法では、加害企業など法人の責任を直接問うことは難しい。そのため、事故原因に十分に迫れず、被害者の怒りや苦しみが救われないケースも多い。企業の安全意識を高め、再発防止を促すためにも、法人の刑事責任を問う「組織罰」の制定を真剣に考えるべきである。

 原発事故から8年たっても未解明の部分は多い。東電は想定外の津波が原因としたが、国会の事故調査委員会は「主因を津波に限定すべきでない」とし、地震で機器が壊れた可能性にも触れている。原子力規制委員会は再調査を決めた。東電も原因を徹底究明する責任がある。

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