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 今年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池を開発した旭化成の吉野彰名誉フォローと海外の2人の研究者が共同受賞した。化学賞の日本人受賞は8人目だ。

 パソコンやスマートフォン、電気自動車など、現代社会を支えるのはリチウムイオン電池がなければ存在し得なかった製品ばかりだ。ノーベル賞を主宰するスウェーデンの王立科学アカデミーが「私たちの生活に革命をもたらした」と評したのは、決して大げさではない。日本の研究レベルの高さが認められたことを、心から祝福したい。

 リチウムイオン電池は、充電して使える「2次電池」の一種である。小型で高性能なためIT機器には欠かせず、3年後の市場規模は7・3兆円と予測される。

 電池素材としてリチウムは古くから着目されたが、安全性に難があった。その点を克服するにはリチウムの酸化物が適することを発見したのが今回の共同受賞者の一人で、実用化にこぎつけたのが吉野氏だ。

 大阪府吹田市出身で、京都大学大学院を経て現在の旭化成に入社した。研究所に配属され、1981年にリチウムイオン電池の開発を始めた。今回の共同受賞者の研究も生かして試行錯誤を重ね、85年に原型を作り上げた。

 吉野氏は開発のきっかけを、旭化成のホームページで「一種の嗅覚」と述べている。

 当時は「ポータブル」という言葉がはやり、電子機器が次々に小さくなって電池も小型化が迫られていた。理論を追求する研究者としての資質に、「常にお客さまが、そして世の中がいったい何を求めているか」を考える企業人の発想が加わり、革新的な技術を生んだと言える。

 商品化は91年だが、3年間は全く売れず「精神的に追い詰められた」と振り返る。それをはねのけたのは自ら認める執着心と、「まあ、何とかなる」と考える柔軟性だろう。

 吉野氏はリチウムイオン電池を軸にした地球環境問題への貢献も見据えている。

 風力や太陽光といった自然エネルギーは気候条件により発電量が大きく変わる。安定電源にするには、つくった電力を蓄えておく小型高性能の電池が不可欠になる。

 王立科学アカデミーも「化石燃料のない社会を可能にする」とリチウムイオン電池を評価するが、まだ期待に十分応えるだけの成果は上がっていない。

 吉野氏は71歳の今も研究の一線に立つ。「死ぬまで研究を続ける」そうだ。化学賞をゴールにせず、リチウムイオン電池の改良を重ねて次の「革命」を起こしてほしい。

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