社説

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 安倍晋三首相の在職日数がきのうで通算2887日に達し、戦前の桂太郎を抜いて憲政史上最長となった。106年ぶりの記録更新だが、看板政策には停滞感が漂い、「1強政治」の緩みやおごりを示す不祥事の数々は退潮を感じさせる。

 権力は、ただ長く、強いことで評価されるわけではない。国民の負託にどう応えるかが重要だ。

 安倍首相の自民党総裁としての任期はあと2年。その力を困難な課題を国民とともに乗り越えるために注ぎ、最長にふさわしい歴史の評価を得られるか。今のままでは厳しい道のりとなるだろう。

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 「戦後レジーム(体制)からの脱却」「美しい国」を掲げ2006年に発足した第1次内閣では、愛国心を重視する改正教育基本法や首相が悲願とする憲法改正の手続きを定めた国民投票法を成立させ、防衛庁を省に昇格させた。

 一方、「消えた年金」や閣僚の「政治とカネ」の問題が噴出し、参院選で惨敗する。首相の体調問題もあり約1年の短命に終わった。

 12年に返り咲いた首相は一転して経済政策を最優先した。保守色の強い政策を急ぎ、政治的資源を使い切った第1次の反省ゆえだろう。第2次内閣発足直後に打ち出した「アベノミクス」の金融緩和策で円安・株高を誘導し、経済指標は好転した。

「数の力」を何に使った

 スタートダッシュに成功した首相は、12年衆院選を含む6回の国政選挙で連勝し「1強体制」を固めた。連続7年にわたる長期政権を可能にしたのは、何といっても選挙で得た圧倒的な「数の力」である。

 首相はその力を、国論を二分する政策を押し通すのに使った。国民の知る権利を脅かす特定秘密保護法、歴代内閣が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権行使を一部容認する閣議決定と、それに基づく安全保障関連法などだ。いずれも根強い反対意見を押し切ってまで進める必要があったのか、今も疑問が残る。

 省庁の幹部人事を首相官邸が一括する内閣人事局の新設は、省益優先を改め、政府の意思決定を透明化する目的だった。だが安倍政権では、官僚が官邸を忖度(そんたく)したと疑われる事例が後を絶たず、制度改革のマイナス面が露呈した。

 国有地売却や特区認可で首相の知人、友人が優遇されたとされる森友・加計(かけ)学園問題、首相に都合の悪い部分を書き換えた財務省の公文書改ざんなど、行政への信頼を損なう重大な疑惑は解明に至っていない。

 「桜を見る会」の招待者を巡る公私混同問題は、身びいきと隠蔽(いんぺい)がまかり通る政権の体質を象徴する。

 国会を軽んじる首相の態度は、目に余る。質問の核心に正面から答えず、持論をまくし立てる。答弁席で自らやじを飛ばす。歴代最長にふさわしく、国権の最高機関である国会に謙虚に臨み、異論に耳を貸す姿勢を身につけねばならない。

消去法による高支持率

 少子高齢化と人口減少を「国難」とする安倍首相の認識に異論はない。安定政権でなければ克服し難い課題といえる。

 ところが、掲げた看板は「女性活躍」「地方創生」から「1億総活躍」「働き方改革」「全世代型社会保障」へ、めまぐるしく変わった。目先を変えて「やってる感」を醸し出す狙いだろうが、どれも十分な成果を上げたとは言えない。

 景気回復に対する国民の生活実感は乏しく、東京一極集中と人口減少は加速し、年金や介護など社会保障への将来不安は増している。

 首相が唱える「戦後外交の総決算」にも同じことが言える。北朝鮮による拉致問題、ロシアとの北方領土交渉、戦後最悪とされる日韓関係など近隣諸国との懸案は解決の糸口をつかめずにいる。トランプ米大統領との親密さに頼った米追随外交には限界が見えてきた。

 それでも支持率は50%前後を維持している。まとまりに欠ける野党の弱体化が最大の要因だが、見過ごせないのは自民党内の対抗勢力や有力な首相後継者の不在である。

 共同通信の世論調査で、支持する理由のトップは「ほかに適当な人がいない」が14年前半から続く。実績や首相への評価でなく、消去法で永らえている政権である。優先順位を読み違え、悲願の憲法改正などのレガシー(政治的遺産)づくりを強引に進めれば混迷は必至だ。

 謙虚に国民の声に耳を傾け、議論を尽くして合意を導き出す。長期政権の弊害を改め、民主主義の王道に立ち返るのに遅すぎることはない。

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