社説

  • 印刷

 約13億人の信者を抱えるカトリック教会トップのローマ教皇フランシスコが4日間の日程で来日した。

 長崎と広島を訪問し被爆者と面会したほか、東京では東日本大震災の被災者らと交流し、示唆に富んだメッセージを世界に向けて数多く発信した。

 私たちはそれらを未来に生かしていかねばならない。

 核兵器の廃絶は教皇のかねての持論だが、注目すべきはこれまでのカトリック教会の姿勢と異なり、攻撃を防ぐために核兵器を持つこと自体を明確に否定している点だ。

 長崎での演説では、核兵器の維持や改良などを「とてつもないテロ行為だ」と指摘した。核使用だけでなく、保有や核抑止も強い言葉で改めて批判した。世界の人々に「核兵器の脅威には一致団結して応じなくてはならない」とも呼び掛け、強い危機感をにじませた。

 背景にあるのが核軍縮の停滞だ。米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約が8月に失効し、2021年に期限切れを迎える新戦略兵器削減条約(新START)も延長が危ぶまれている。北朝鮮やイランの核問題も出口が見えない。

 トランプ米大統領が唱える「自国第一主義」が世界にはびこり、核保有国と非保有国の対立も激しさを増している。教皇は「相互不信が兵器の使用を制限する国際的な枠組みを崩壊させる危険がある」とも述べた。各国の指導者は真摯(しんし)に受け止める必要がある。

 教皇が元首を務めるバチカンは、核兵器禁止条約をいち早く批准した。一方で、米国の「核の傘」に依存する日本は禁止条約に背を向け続けている。

 安倍晋三首相は教皇との会談後に「核保有国と非保有国の橋渡しに努める」と話したが、橋渡しどころか、核保有国側の論理に立った振る舞いに終始しているのが実情だ。唯一の被爆国のリーダーとして猛省せねばならない。

 教皇の発言は広範囲に及んだ。原発については「技術の進歩を人類の進歩の尺度にしがちだが、立ち止まることも大切だ」とくぎを刺した。環境問題を巡っては「地球を搾取するための所有物でなく、次の世代に手渡す貴重な遺産として見るべきだ」と指摘した。

 通底するのは、今回の来日のテーマとした「全てのいのちを守る」である。経済的価値の多寡を判断基準の中心にしがちな現代人に、忘れかけていたことを改めて示してくれたと言える。

 教皇の言葉をしっかりと受け止め、よりよい世界や社会を築く責任が私たちに課せられている。

社説の最新