社説

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 何ごとも越えてはならない一線がある。安全保障では、とりわけ「自衛」と「攻撃」の厳密な切り分けが求められる。

 攻撃される前に他国の施設を破壊する「敵基地攻撃」は、その線引きがあいまいになりかねない。相手に「先制攻撃」とみなされ、武力の応酬を招く恐れがあるからだ。

 何より国是の専守防衛を逸脱する懸念がつきまとう。そのため歴代政権は慎重な姿勢を維持してきた。

 だが、安倍政権は議論を再開するという。政府は国家安全保障会議(NSC)で協議し、自民党は近く検討チームを設置する。

 地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の断念を受けて、新たなミサイル防衛の在り方を検討するという理由だ。

 こうした前のめりの姿勢には、憲法が掲げる平和主義を形骸化する危うさがつきまとう。政治主導の性急な動きは自重すべきである。

 そもそも今なぜ、敵基地攻撃能力の議論なのか。

 安倍政権が導入を目指したイージス・アショアは、飛来するミサイルを上空で撃ち落とす仕組みだった。それが周囲に危険を及ぼす可能性があるとして一転、断念となった。

 北朝鮮の核・ミサイル開発などで安保環境は厳しさを増している。備えを万全にする対策は必要だろう。

 ただ、それは国民を守る「盾」をどう強化するかという問題だ。敵に攻め込む「矛」の機能は、日米安保条約に基づく米軍の役割である。

 敵基地攻撃では、日本を狙うミサイルが発射態勢に入った場合、自衛隊が先に敵の基地を破壊する。「自衛の範囲」と主張しても、対外的には「矛」と区別しがたい。

 「防ぐ」ための話が「攻める」ための話にすり変わる。立憲民主党の安住淳国会対策委員長が「飛躍し過ぎ」と批判するのは当然だ。

 自民党は3年前にも政府に検討を促した。今回はミサイル防衛再構築の流れで実現を図る狙いがあるようだ。しかし公明党は「長年の考え方を基本に、慎重に議論していきたい」(山口那津男代表)と距離を置き、与党の足並みはそろわない。

 日米安保条約の改定から今年で60年になる。安倍政権は自衛隊と米軍の一体化を加速し、イージス・アショア関連を含む巨額の防衛装備品を米国から購入してきた。今後、米国から攻撃力の肩代わりまで要請される可能性もある。

 防衛費も聖域化され、毎年増額を重ねてきた。しかしコロナ禍で国民が求めているのは医療体制の整備や中小事業者支援などである。防衛費に歯止めをかける意味でも、安保政策を全体的に見直す議論が必要だ。

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