社説

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 東京と名古屋を40分で結ぶリニア中央新幹線計画で、JR東海の金子慎社長が2027年の開業予定を「難しい」と述べた。静岡県内のトンネル工事に伴う湧水で大井川の水量に影響が出る恐れから、県が着工を認めないためだ。予定通りの開業には6月中の準備工事着手が必要といい、延期は避けられそうにない。

 新駅計画がある長野県や名古屋市では都市開発の青写真が描かれ、関西経済界は大阪までの早期延伸を求めている。JR東海の事業だが、政府はリニア技術の輸出を成長戦略に掲げ、9兆円を超す事業費の一部は政府系金融機関が融資するなど、国家プロジェクトに位置づける。

 一方、静岡県民にとって大井川は生活や産業の貴重な水源だ。特産品の茶の栽培にも欠かせない。かつて上流に発電用ダムが建設された際には、電力会社に放流量を増やすよう求める「水返せ運動」を流域の官民が展開した経緯もある。

 金子社長や国土交通省の藤田耕三事務次官は川勝平太県知事とも直接会談しているが、静岡側のスタンスは変わっていない。JR東海は開業ありきの姿勢を改め、地元の合意を得る努力を重ねる必要がある。

 大井川の水量減の可能性はJR東海が13年、環境影響評価の準備書で示した。14年の着工認可に先立って国交相は、専門家の助言を踏まえ対策をとるよう求めた。

 県は湧水の全量を川に戻すように求め、JR側も応じたが、昨年8月になり工事中の一定期間は戻せないと方針を覆した。地元が反発するのは当然だろう。

 国が仲介役となって今年1月に設けた専門家会議ではJR東海が示した湧水対策について、根拠とするデータなどへの疑問が相次いだ。県民に対策を分かりやすく説明し、外部の指摘も受けて修正を重ね、地域が安心感を抱ける対策を示すのが着工の大前提だ。

 専門家会議でJR東海の金子社長は、着工を拒む県の姿勢に法的問題があるとの趣旨の発言をし、参加した委員から批判を浴びた。水量減の可能性を示して7年を経ても、地元の理解を得られる対策を示せなかった責任を直視すべきである。

 環境対策は、ともすれば補償のあり方に論点が移りがちだ。しかし県が懸念するように工事で大井川に影響が出れば、その損失はいかなる形でも同等には償えない。

 地元と誠実に話し合いを重ねながら環境対策を検討し、効果的な手法が見いだせないならルート変更など計画自体を見直すのが筋である。

 「国策」には地域の利害を差し置いてでも最優先で取り組むという考えは、時代錯誤というしかない。

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