社説

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 地域に点在する無形の文化財を一つのストーリーにまとめ魅力を発信する文化庁の「日本遺産」に、兵庫県内からは伊丹と灘五郷の日本酒文化が選ばれた。

 江戸時代、伊丹では白米を使った酒造り「伊丹諸白(もろはく)」が広まった。灘五郷の酒は六甲山からの宮水で醸し、いずれも江戸で「下り酒」として人気を博した。醸造家らが育んだ阪神間モダニズムなどの文化は今も建造物や人々の暮らしに生き続ける。

 神戸・阪神間の住民にとって身近な歴史資源が、現代につながる価値を持つとアピールしている。地域活性化や観光客誘致につなげると同時に、その価値を次代に残したい。

 今回の日本遺産は伊丹や神戸など阪神間の5市が申請し、現存する日本最古の酒蔵「旧岡田家住宅」(伊丹市)や灘の酒造用具など52件の文化財で構成される。酒蔵が並ぶ景観の保持に自治体が力を入れるほか、酒造会社も記念館などを設け、往時の酒造りを今に伝える。

 辛口の灘酒を生みだす宮水は、都市化が進んだ現代も水脈を絶やさない。酒造会社が合同で調査会を設け、西宮市も条例で開発業者に事前協議を義務付けるなど、開発と保全の両立に向けた官民の努力が、貴重な天然資源を守り続けてきた。

 ほかにも県内からは太子町や宍粟市、南あわじ市が他府県の自治体とともに申請したが、惜しくも選に漏れた。地域の資源を新たな切り口でとらえた蓄積を、今後のまちづくりに役立ててもらいたい。

 日本遺産が2015年に創設された際、文化庁は100件程度の認定を目指していた。今回、兵庫を含む21件の認定で計104件となり、募集は当面中止される。

 数の上では当初目標をクリアしたが、本来の狙いである地域活性化がどこまで達成できたかは改めて検証する必要があるだろう。

 今回の灘五郷も含め県内の日本遺産は9件と全国最多になった。関わる市町は20を超すが、すべての地域が「日本遺産効果」を実感できているわけではない。

 認定されたストーリーを外部に発信するには、時代を超えて理解される要素を探したり、受け手の関心を引く部分を強調したりなど、付加価値をつくり出す試みが欠かせない。文化庁は日本遺産認定をゴールではなく、地域の新たな価値を磨くスタートととらえて、今後は関係自治体へのサポートを手厚くするべきだ。

 当初想定されていた日本遺産巡りの外国人観光客は、コロナ禍の影響で期待できなくなった。先人が残した知恵や努力、地域の歴史に、まず日本人が触れ、その魅力を再発見する好機としたい。

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