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 安倍政権の特徴の一つは、憲法改正への前のめりの姿勢にある。

 自民党は綱領で改憲をうたうが、歴代政権は改正には慎重な構えを見せてきた。国民的な機運の高まりがない中で、経済、外交などの現実的な対応を優先したといえる。

 これに対し、安倍晋三首相は改憲を「悲願」としてきた。この7年8カ月、手を替え品を替え、動きを加速させようと図ってきた。

 「断腸の思い」という辞任会見の言葉には、在任中に実現できなかったことへの無念さがにじむ。だが、旗を振っても国民の理解が広がらなかった現実を直視すべきだろう。

 いま改憲は急ぐべきなのか、立ち止まって考える必要がある。

 政権を奪還した2012年の衆院選で、自民党総裁だった安倍氏は改憲による国防軍創設や集団的自衛権の行使実現などへの意欲を示した。

 戦争放棄などを定めた憲法9条は「平和主義」のよりどころだ。自国が攻撃されなくても他国と共に武力で反撃する集団的自衛権は、どの政権も「9条の制約上、行使できない」との見解を維持してきた。

 その憲法解釈を、安倍政権は閣議決定で転換する。条文改正を伴わない「解釈改憲」と呼ばれるからめ手で、憲法学者の違憲との批判や世論の反対を数の力で押し切り、安全保障関連法を成立させた。

 17年5月の憲法記念日には、首相自身が9条に「自衛隊の存在」を追記する考えを披露するに至る。

 さらに自民党は、他党の協力を見越して改憲項目に教育無償化などを盛り込み、首相が20年の「新憲法施行」を公言して早期実現への熱意を示した。

 背景には、衆参両院で「改憲勢力」が3分の2を確保するなどの追い風があった。だが昨年の参院選で改憲勢力は3分の2を割り、風向きが変わる。国会の憲法審査会では野党との協議が一向に進まない。

 そうした状況に業を煮やしたのか、自民党内ではコロナ禍を引き合いに、政府が超法規的措置を取れる緊急事態条項の創設を改憲の重点テーマとする言動が目立ち始めた。論点がころころ変わり、何のための改憲か分かりにくくなるばかりだ。

 第2次安倍政権は発足当初、改憲の国会発議要件を衆参の3分の2以上とする96条の規定の引き下げをもくろみ、「裏口入学」と批判された経緯がある。もともと変えることが目的だったとしか思えない。

 共同通信の世論調査では半数超が安倍首相の下での改憲に反対している。次の政権は前のめりの姿勢を改め、まず感染症対策や経済再生などに全力で取り組むべきだ。それが国民の負託に応える道である。

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