社説

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 歴代最長を更新した第2次安倍政権はきのう幕を閉じた。その「継承」を訴えた菅義偉氏が国会で新首相に指名され、菅内閣が発足した。

 だが、立ちはだかるのは安倍路線の継承では乗り越えられない問題の数々だ。新型コロナウイルスの収束は見通せず、経済や暮らしを直撃している。批判を封じることで永らえた「安倍1強」体制の影響で社会から寛容さが失われ、政治へのあきらめが広がっているように見える。

 「改革」への意欲を語る菅新首相は、自らが官房長官として支えた安倍政治の何を改め、どんな国を目指すのか。国民を広く包み込むメッセージを届け、異論に謙虚に耳を傾ける。まず対話する政治を取り戻すことから歩みを始めるべきだ。

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 菅氏は組閣にあたり「国民のために働く内閣をつくる」と述べた。内実は、ほぼ安倍政権の「居抜き」である。麻生太郎副総裁兼財務相をはじめ、閣僚の大半を再任か閣僚経験者の再登板で固めた。安倍氏の実弟を防衛相に抜てきするなど前任者への気配りにも余念がない。

 自民党役員人事では、総裁選でいち早く菅氏支持の流れを作った二階俊博幹事長を再任した。主要派閥の均衡の形をとりつつ、自分が信頼する当選同期を要所に置くなど党内ににらみを利かせる周到さも見せた。

 政権基盤を固めるため、清新さより安定感を重視した布陣と言える。

 その分、強調する「縦割り行政、既得権益、前例主義の打破」に関しては突破力に欠ける印象だ。女性の積極登用や新たな人材の育成に意を用いた様子はうかがえず、首相の改革意欲がどこに向かっているのかはまだ見えてこない。

官邸主導の見直しを

 菅カラーが最も出たのは、官房長官として取り仕切ってきた官邸の人事ではないか。人事で官僚を掌握し、官邸主導で政策を動かす。自らが前政権で確立した手法で政権運営を円滑に進める狙いだろう。

 自身の後任となる官房長官には、旧大蔵省出身の加藤勝信氏を厚生労働相から横滑りさせた。仕事の堅実さには定評があるが、コロナ対策では「役所寄り」と不評で、スピード感の欠如や説明不足も指摘された。

 一方、官邸スタッフの大半は安倍政権で菅官房長官を支えた側近の官僚らを留任させた。勝手知ったる職場である。重要局面では自ら采配を振ればいいと考えている節がある。

 行き過ぎた官邸主導が、「菅1強」で強まらないか懸念する。

 安倍政権は、国民のニーズとかけ離れたコロナ対策で現場に混乱を招き、政権の意向を忖度(そんたく)する官僚が公文書改ざんにまで手を染めた。こうした悪弊が政治不信を招いていることを軽く見てはならない。

 官邸主導の功罪を冷静に見極め、軌道修正することにこそ、菅氏の手腕を発揮すべきだ。

 国民が新内閣に期待する課題は、なんといってもコロナ対策である。

 感染者数や死者数が欧米各国に比べて少ないが、政府の対策への国民の評価は厳しい。定額給付金や布マスク配布にみられる施策の迷走だけでなく、情報発信に消極的な姿勢に国民は不安を募らせた。

 経済政策アベノミクスは、株価上昇など一定の成果を上げたが、地方や中小企業には実感が乏しい。格差も拡大したとされ、共同通信の世論調査では見直しを求める声が59%に上る。憲法改正に積極的な安倍氏の姿勢を「引き継ぐ必要はない」と考える人も58%に達した。

 都合のいいデータを並べて実績を誇示するだけでは、国民の信頼は得られないことを表している。

 森友、加計学園や桜を見る会を巡る問題への対応も同様だ。説明責任を積極的に果たそうとせず、事実解明に必要な資料までなかったことにする。問題を糊塗(こと)するような政権の対応が疑惑を長引かせている。

野党も責任を果たせ

 新体制の発足を、負の政治姿勢と決別し、国民の信頼を取り戻す好機としなくてはならない。

 時を同じくして野党の合流新党・立憲民主党が結党された。1強政治の長期化を許したのは野党の力不足も大きい。枝野幸男代表は「まず自助」を求める菅首相に対し、「支え合いの社会」を選択肢に掲げる。

 自民党が軽んじてきた現場の課題を政策に反映し、今度こそ野党第1党の責任を果たさねばならない。

 国内外の課題は山積している。衆院解散を巡る駆け引きよりも、国会での論戦を速やかに実現すべきだ。

 まずは仕事ぶりで「働く内閣」の実力を見せてもらいたい。

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