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 幼稚園や保育所に無償化制度が導入され、低所得世帯では大学の授業料も減免される-。安倍晋三前首相は「全世代型社会保障」と銘打ち、高齢者医療や年金が主体だった社会保障を子育てや教育支援に拡大した。7年8カ月に及んだ長期政権の実績とも指摘される。

 だがその財源は、降って湧いたわけではない。消費税率を8%から10%に引き上げるに際して、高齢者向けが主体だった社会保障費の一部を振り替えた結果である。

 2017年の解散総選挙では消費税の使途変更を大義名分に掲げ大勝を収めた。しかし社会保障のメニュー拡大を力説する一方で、財源や負担のあり方には大胆に踏み込まないまま、政権の幕は閉じた。

 少子高齢化の加速や、国の債務が膨らみ続ける状況は容易に変わらない。その中で国民が安心して老後を過ごせる社会の姿を示すのが、菅義偉首相の責務である。

 安倍政権の社会保障政策は、担い手の増加に力点を置き高齢者や女性の働く場を拡大した。経済政策アベノミクスが成長をもたらせば、賃金や雇用の増加で社会保障の充実強化に結びつくとも唱えた。

 ただ5年後には75歳以上が人口の2割近くを占め、社会保障費の増加に拍車がかかる。担い手増だけでは到底追いつかず、給付と負担のバランス見直しは避けて通れない。

 昨年末、政府の全世代型社会保障検討会議は75歳以上の医療費負担割合について、一定以上の所得のある人は22年度までに1割から2割に引き上げると明記した。今年6月に最終報告をまとめる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大のあおりを受け、議論は中断している。

 懸念するのは、負担増から目を背け給付拡大を唱えた安倍政権の姿勢を、菅首相も継承しようとしている点だ。総裁選で将来的な消費税率引き上げに言及したものの、批判を浴びると火消しを図った。

 政府予測では、20年後の社会保障給付費は現行より60兆円以上膨らむ。だが衆院議員の任期を来年10月に控え、総選挙が近づく中、国民に耳の痛い議論は棚上げされる可能性が否めない。

 高齢社会に必要なサービスはしっかり確保する。同時に公平な負担の実現に向け、所得税や資産課税、社会保険料も含めた制度を全面的に見直し、国民の理解と納得を得る。そのための作業を早急に始めねばならない。

 菅氏は目指す社会像として「自助、共助、公助」を掲げる。これは社会保障で自助努力の拡大を意味するのか、発言の真意もきちんと説明する必要がある。

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