社説

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 ついに核兵器禁止条約が来年1月、発効する。国連での採択から3年余りで、批准数が発効要件を満たす50カ国・地域に達した。

 広島、長崎への原爆投下から75年がたった。被爆地の惨状は目を覆うばかりで、その後の被爆者の苦難は地球上に核兵器があってはならないことを示す。だが、世界には約1万4千発もの核弾頭が現存し、核軍縮は停滞し続けている。

 こうした中、核の保有や開発、使用などを全面的に禁じる国際規範が誕生することは極めて意義深い。

 グテレス国連事務総長は「世界的運動の到達点だ」と述べた。自らの過酷な体験を発信し、核廃絶を訴え続けてきた日本の被爆者が果たした役割も大きい。

 これを機に、全ての国々が手を携え「核なき世界」の実現へ、新たな一歩を踏み出さねばならない。

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 前文で「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」とうたう条約は、核兵器を非人道的で違法と断じ「絶対悪」として根絶を目指す。威嚇行為も禁止することで核抑止力も否定した。発効後1年以内に開かれる締約国会議などに、非締約国がオブザーバーとして参加できる。

 ただ、参加国以外への法的拘束力はない。米英仏ロ中の五大保有国は「厳しい安全保障環境を無視している」などの理由で条約自体に反対している。イスラエルやインド、パキスタンなど残る保有国も参加せず、日本など米国の「核の傘」に依存する国々も批准に至っていない。

 このため、実効性を疑問視する意見があるのも事実だ。

 しかし、発効すれば核保有は「国際法違反」のそしりを免れず、軍縮の圧力となるのは間違いない。批准国数が拡大すれば、対人地雷禁止条約などのように不参加国にも大きな影響力を持つ可能性がある。米国が複数の批准国に撤回を強く求めるのも、国際的な反核世論の高まりを恐れている証左ではないか。

足踏み続く核軍縮

 もっとも、核軍縮の現状は厳しい。約190カ国が参加する核拡散防止条約(NPT)は、五大国に保有を認める代わりに「核軍縮に向けた誠実な交渉義務」を課している。だが近年は足踏みが続き、不満を募らせた非保有国側が禁止条約の採択に動く要因となった。

 核弾頭の9割を持つ米ロ間では来年2月の期限切れを前にした新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉が予断を許さない。失効すれば、中国を含めた本格的な軍拡競争につながる懸念もある。

 核兵器禁止条約が発効する一方で、世界を取り巻く「核のリスク」は高まっているのが現実だ。核保有国には、まずNPTが定める軍縮交渉の義務を果たすよう求めたい。

 残念なのが、日本政府の姿勢である。北朝鮮と中国の脅威や、米国との同盟関係を重視する立場から、韓国などとともに禁止条約に反対している。被爆者をはじめ国内外に失望が広がるのは当然だろう。

 加藤勝信官房長官は「日本のアプローチとは異なる」と従来の方針を繰り返し、菅義偉首相は所信表明で条約に触れないどころか核廃絶への決意さえ述べなかった。

 核抑止に依存するあまり、思考停止に陥っているように映る。政府が自任する核保有国と非保有国の「橋渡し役」を担うためには、禁止条約はNPT体制と矛盾せず両立しうるものと認識を改める必要がある。

「橋渡し役」の責務

 唯一の被爆国として取るべき道は禁止条約を拒絶することではない。どうすれば核廃絶のための役割を果たせるかを考えることである。

 旧態依然の思考から抜け出すことが重要だ。すぐに禁止条約の批准は難しくても、締約国会議にオブザーバーとして参加し、保有国も受け入れられる現実的な議論を先導することはできる。その過程で、早期に正式加盟する道を探るべきだ。

 日本世論調査会による全国世論調査では、禁止条約に日本も「参加するべきだ」とした人は72%に上った。うち62%が「日本は唯一の戦争被爆国だから」と答えた。

 世界では核関連産業への資金提供を取りやめる金融機関が増えている。日本でもメガバンクを含む多くの銀行が投資や融資を自制する方針を定めている。核廃絶は国際的な潮流になりつつあると言っていい。

 このまま禁止条約に背を向け続ければ、国際社会の信用失墜につながりかねない。この流れを逃さず、日本は核抑止に頼らない安全保障を探る議論の先頭に立つべきだ。

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