社説

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 1月、人から人への感染が明らかになった新型コロナウイルスに、世界は根底から激しく揺さぶられた。

 日本社会も荒波の中にある。逼迫(ひっぱく)する医療の現場から繰り返し悲鳴が上がった。患者や医療従事者らへの差別や中傷という問題も起きている。受診控えに伴う病院経営の悪化も生じた。

 緊急事態宣言や営業時間短縮要請で企業の休廃業が相次ぎ、雇用も冷え込んだ。生活に苦しむ人が続出し自殺者の増加まで引き起こした。

 政策次第で国民の命と暮らしが大きく翻弄(ほんろう)されることを、あらためて痛感させられた1年だった。政府は2021年もそのことを直視して、感染の収束と国民生活の回復に総力を結集せねばならない。

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 国内での感染は強弱を繰り返し、春の「第1波」、夏の「第2波」、秋から現在まで続く「第3波」へと至っている。

 最も緊張が高まったのが第1波のときだ。予想を超えた感染拡大を受け、安倍晋三首相(当時)は4月、新型コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言を初めて発令した。全国解除までおよそ1カ月半を要した。

 宣言は一定の効果を発揮したとみられる。大半の個人や事業者が外出自粛や休業要請に協力し、繁華街から人影が絶えた。

 しかし経済には甚大な打撃を与えた。使い方の難しい「伝家の宝刀」であることを社会全体が学んだ。

 ただ、政府のコロナ対策が後手後手に回ったことは否めない。2月にはクルーズ船での感染封じ込めに失敗し、科学的根拠もなく唐突に打ち出した全国一斉休校要請が混乱を招いた。個人や事業者への支援策の遅れが批判を浴び、観光支援事業「Go To トラベル」への対応も二転三転し、国民の失望を買った。

 未知のウイルスを前に、手探りで経済と感染対策のバランスを取るしかなかった点を考慮しても、対応は不十分だったと言わざるを得ない。

 政権の座を安倍氏から継承した菅義偉首相の発信力の弱さは目を覆うばかりだ。状況を打開するための具体策を明確に示し、信頼回復に全力を注ぐ必要がある。

教訓は生かされず

 日本の医療体制の問題点も浮き彫りになった。

 まずPCR検査能力の脆弱(ぜいじゃく)性だ。検査を受けたくても受けられない「検査難民」という言葉も生まれた。安倍首相(当時)が「目詰まり」と表現し厚生労働省に拡充を指示したが容易に改まらなかった。

 27日急死した羽田雄一郎元国土交通相は、検査申し込みから予約が取れるまで2日を要し、その間に症状が急変した。欧米諸国などとの検査能力の差は大きい。第3波に直面する中、埋める努力が欠かせない。

 欧米と比べ感染者数が桁違いに少ないにもかかわらず、医療崩壊の危機に直面し、集中治療室(ICU)の体制で見劣りするなど有事の医療対応のもろさもあらわになった。看護師などのマンパワー不足、保健所の負担過多なども表面化した。

 09年に流行した新型インフルエンザの教訓が生かされず、行政改革として保健所の削減や病院の統廃合が進んだことも裏目に出た。政府や各自治体は体制強化を急ぐべきだ。

懸念される「慣れ」

 世界の感染者数は8千万人を超え、死者も200万人に近づいている。感染力が大きく増したとされる変異種が日本を含む多くの国で見つかり、警戒が高まっている。

 わずかな光明は、欧米などでワクチン接種が始まったことだ。パンデミック(世界的大流行)に歯止めをかけ、制圧の切り札となることを期待したい。

 現在国内を襲っている第3波はかつてない規模に膨らみ、再び医療崩壊の懸念が強まっている。東京都や大阪府などは飲食店に営業時間の短縮を要請しているが、人出は4月の緊急事態宣言時ほど減っていない。社会全体に「コロナ慣れ」が広がっていないか懸念される。

 政府は新型コロナ特措法の改正に向けた調整を本格化させた。菅首相は休業や営業時間短縮の要請に実効性を持たせるため、罰則と補償を含む内容を検討するとしている。私権制限とのバランスなど多くの論点をはらむだけに、年明けの通常国会で直ちに議論するべきだ。

 感染収束の兆しが一向に見えず、暗雲が垂れ込めたまま今年が終わろうとしている。一人一人が基本的な感染対策を徹底することで、直面する課題である年末年始の医療体制維持につなげたい。

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