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バイオガスを手掛ける弓削牧場
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バイオガスを手掛ける弓削牧場

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 菅義偉首相は昨年10月、国内の温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言した。

 温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」は既に15年に採択されており日本が出遅れたのは残念だが、ようやく世界と歩調を合わせたことは歓迎したい。

 二酸化炭素(CO2)やメタンなどの温室効果ガスは深刻な地球温暖化を引き起こしている。新型コロナウイルスの感染拡大が収束すれば、世界経済のV字回復で排出量が一気に増えかねない。

 欧州連合(EU)は、コロナ禍の経済低迷を立て直す7500億ユーロ(約95兆円)の基金などを生かし、脱炭素社会への事業を本格化させる。日本も具体的な取り組みを急がなければ、国際社会に追いつけない。

    ◇

 地球温暖化に伴い、気象災害の危険性が高まっている。近年、日本国内でも豪雨などが相次ぐ。昨年7月の豪雨は熊本県の球磨川などを氾濫させ、九州で死者77人を出した。19年10月の東日本台風では100人以上が犠牲になった。

 記録的な猛暑も毎年のように続く。今世紀末の国内平均気温が、20世紀末から最大4・5度上がるとの予測もある。熱波や洪水など、世界の異常気象も常態化している。

 この「気候危機」に歯止めをかけるため、パリ協定は世界の気温上昇を「産業革命前に比べて2度未満、できれば1・5度に抑える」としている。昨年1~10月の平均気温は既に約1・2度も上昇していた。目標の達成は決して簡単ではない。

政府がすべきこと

 政府は昨年12月、脱炭素社会に向けた「グリーン成長戦略」を発表した。再生可能エネルギーの導入強化や、30年代半ばまでに全ての新車を電動車にすることなどを目指す。

 再生可能エネルギーでは洋上風力発電に力点を置く。海洋国・日本には適地が多いとされる。ただ国内にメーカーはなく、建設の経験も乏しい。国の支援は不可欠だ。周辺環境への配慮も忘れてはならない。

 疑問を感じるのは政府が想定する将来の電源構成だ。再生可能エネルギーの比率を5~6割に引き上げる一方で、3~4割は火力発電と原発に依存する。

 石炭火力発電のCO2排出は、削減に限界がある。原発は事故の危険性に加え、使用済み核燃料の処分策も決まっていない。この機に脱石炭と脱原発依存に踏み出すべきだ。

 グリーン成長戦略は、CO2排出に課金する「カーボンプライシング」にも触れている。産業界などに慎重な声もあるが、世界では導入例があり議論は避けて通れないだろう。

神戸の牧場の挑戦

 脱炭素社会に向けて欠かせないのが、地域での取り組みである。

 兵庫県は政府に先んじて50年の実質ゼロを表明し、県地球温暖化対策推進計画の改定を進めている。

 全排出量の6割以上を産業部門が占めるのが、兵庫の特徴だ。石炭火力発電の廃止・転換などがどれだけ進むかがポイントになる。一方で、CO2の吸収源である森林や海の藻場の整備も重要な役割を持つ。

 県内には、先進的な試みがある。例えば神戸市北区の弓削(ゆげ)牧場は、バイオガスの生産に成功している。乳牛のふん尿やレストランからの調理くず、チーズ加工から出る液体などの有機物を活用する。

 ガスは暖房や給湯、灯火などに使う。生産設備はビニールハウスの中に収まるほどの小ささだ。量販店などで調達した資機材も使い、コストを抑える工夫も重ねている。

 場長の弓削忠生さんは「社会の分業化が進み、経済成長も上り詰めた。農業を基本にした循環型社会に着地するしかない。コロナ禍は、立ち止まって足元を見直せという暗示のように思えてならない」と話す。

 脱炭素社会へは、身の丈の試みを増やしていけばいいと弓削さんは言う。個人でも、生活を見直し家庭菜園を始めるなどできることは多い。小さなことを積み重ね、30年後の「CO2実質ゼロ」につなげたい。

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