社説

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 核兵器の開発や保有、使用などを威嚇を含め全面的に禁じる核兵器禁止条約が発効した。原爆投下から75年余りの歳月をかけ、世界は「核ゼロ」へと新たな一歩を踏み出した。

 ただ、発効はあくまでもスタートラインにすぎない。米ロ中など核を保有する9カ国や米国の「核の傘」の下にいる日韓などは条約を否定しており、道のりは険しい。

 こうした国々を巻き込み、実効性を高めることが重要になる。唯一の被爆国である日本の姿勢が厳しく問われるのは言うまでもない。

 核廃絶は人類共通の宿願である。あらゆる国が立場の違いを超えて危機感を共有し、市民や非政府組織も交えて、ゴールへと着実に歩を進めるために知恵を出し合いたい。

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 核を巡る国際秩序は現在危機にひんしている。

 トランプ米前大統領は任期中、ロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から一方的に離脱した。「核体制の見直し(NPR)」で核の役割拡大を目指す方針を示し、小型核の開発を進めた。実戦使用もほのめかし、昨年11月には政権3回目となる臨界前核実験を実施している。

 米国に対抗するロシアと中国は核戦力の近代化を進め、北朝鮮も核開発を継続する。

 保有国を含む約190カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。

隣り合わせの危機

 地球上には米ロを中心に約1万3千発もの核兵器が現存している。1発でも広島、長崎に投下された原爆とは桁外れの威力があり、使い方次第で全人類を滅ぼすことができる。

 私たちはこうした状況の異常さと、核の本当の怖さをどこまで認識しているだろうか。

 キューバ危機など核戦争が寸前で回避されたことはこれまでに幾度もあった。米国内では1月上旬、連邦議事堂への乱入をあおるなど政権末期のトランプ氏の精神状態が危ぶまれ、核使用への懸念が高まったとされる。幸い何事もなかったが、世界が核の大惨事と隣り合わせにあることを改めて思い知らされる。

 広島、長崎に続く3度目の悲劇が起きていないのは幸運にすぎないと指摘する専門家は多い。

 禁止条約に背を向ける国々が依存する核抑止力は「幻想」とする見方もあり、「恐怖の均衡」はいつ崩れてもおかしくないと言える。核のリスクを根絶するには、NPTだけでは不十分だ。禁止条約と補完し合って運用する必要がある。

 一方、世界の核政策をリードする米国ではトランプ氏が退場し、新大統領にバイデン氏が就いた。大統領選の期間中、オバマ元大統領が掲げた「核なき世界」の目標を引き継ぐ意向を示し、核軍縮に前向きな姿勢を打ちだしている。

 ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題、イラン核合意への復帰、8月に見込まれるNPT再検討会議への対応…。バイデン氏には核を巡る喫緊の課題も多く待ち受ける。その対応を国際社会が注視している。

 日本の役割も重要だ。NPTは米ロ中英仏の核五大国に核軍縮交渉義務を定めている。菅義偉首相は、バイデン氏との初の首脳会談の際、その履行を強く迫るべきだ。禁止条約批准についても思考停止に陥らず、議題化するよう求める。

「旗」を高く掲げて

 米国の同盟国内では、小さいが見逃せない変化も起きている。

 北大西洋条約機構(NATO)加盟国で米国の「核の傘」に頼るベルギーは、昨年秋に発足した新政権が禁止条約を肯定的に評価し、「核軍縮に新たな弾みをつけることができるか検討する」と発表した。現段階では条約に参加する可能性は低いとみられるが、重要な一歩と言える。

 1年以内に開かれる締約国会議を巡っては、禁止条約の実現を長年訴えてきた被爆者だけでなく、批准国の間にも日本のオブザーバー参加を求める声が高まっている。核廃絶の先頭に立ち、保有国と非保有国の橋渡し役を担うというなら、首相は参加を決断すべきだ。

 核の存在は気候変動とともに人類の生存を脅かす問題である。加えて世界は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)という未曽有の危機の中にある。

 いまこそ、核廃絶という旗を一段と高く掲げたい。日本を含めた各国政府は、その旗を改めて目に焼き付け、ともに向かうべき道を導き出さねばならない。

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