社説

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 東京電力福島第1原発で増え続ける汚染水を浄化した処理水の処分について、政府は関係閣僚会議を開き、海洋放出する方針を決めた。菅義偉首相は「政府が前面に立って安全性を確保し、風評払拭(ふっしょく)に向けあらゆる対策を行う」と述べた。

 菅首相は全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と面会し、海洋放出への理解を求めた。岸会長の返事は「反対の立場はいささかも変わらない」だった。処理水は放射性物質トリチウムを含み、地元は海洋放出が風評被害を招き、深刻な影響が出ることを懸念している。被災地の声を無視した強引な決定だ。

 地元漁業者は事故の翌年、試験操業を始めた。10年かけて魚介類の汚染が収まってきたため、今月から本格操業に向けた移行期間に入ったばかりだ。そのタイミングでの決定に漁業者が反発するのは無理もない。

 第1原発では、溶融核燃料(デブリ)を冷やす水と流入する雨や地下水により、大量の汚染水が発生している。この水は多核種除去設備(ALPS)で浄化処理するが、トリチウムの除去は困難とされる。処理水は125万トンに達し、貯水タンクは来年秋以降に満杯になるという。

 全漁連は処理水の保管継続を求めている。復興の妨げになるとして陸上保管に反対する声もあるが、場所や保管方法に工夫の余地はあったはずだ。政府や東電があらゆる手だてを検討したかどうかは疑わしい。

 海洋放出による影響を受けるのは漁業者だけではない。処理水にトリチウム以外は全く含まれないのか。魚や人体への影響はないのか。政府は、風評被害への対策として魚介類の販路拡大や観光客誘致を促進するというが、処理水に対する国民の理解を深めるための情報公開や納得できる説明が先ではないか。

 風評被害が起きた場合、東電は適切に賠償に対応するとしている。だがたとえ賠償金が出ても、漁業を続けられず、後継者が育たないなら、被災地の復興はままならない。

 政府は、2年後をめどに海洋放出を始める方針だ。処理水の放出は30年程度も続く。トリチウム濃度を国の基準の40分の1未満まで薄めるとしても、長期間の放出による環境汚染や風評被害は見通せない。

 トリチウムは国内外の原発で放出されてきた。そのため処理水も安全というのが政府の主張だが、むしろ、これまで放出の事実が周知されていなかったことが問題だ。原子力政策そのものへの信頼が失われていることを自覚してもらいたい。

 海洋放出ありきの決定は、将来に大きな禍根を残す。政府は、国民への丁寧な説明と関係者との話し合いに全力を尽くすべきだ。

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