社説

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 新型コロナウイルスの感染拡大はやまず、今年の憲法記念日も昨年に続いて緊急事態宣言下で迎えた。

 営業や外出の制限が長引き、生活に困窮する人が続出している。医療の危機で救えるはずの命が次々に失われていく。政府の対応が後手に回るたびに、より厳しい行動制限を求める声が高まり、他者への攻撃や差別が強まる。

 コロナ禍が突き付ける課題の多くは憲法が保障する自由と権利の問題と言える。施行74年となる憲法の理念が私たちの社会に生かされているかを見つめ直す機会としたい。

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 政府は昨年4月、新型コロナの特別措置法に基づく緊急事態宣言を初めて発令した。人との接触の大幅削減を求め、百貨店など幅広い施設に休業を要請した。それでも夏に第2波、冬に第3波を招いた。

 2度目の宣言中の今年2月、罰則を導入する改正特措法が成立した。宣言がなくても知事が営業時間短縮などを要請できる「まん延防止等重点措置」も適用したが、変異株が猛威を振るう第4波を防げなかった。

強弁で乗り切る政治

 欧米やアジアの各国に比べ私権制限に慎重な立場をとってきた「日本方式」が、強権型に転じる分岐点に立っているとの見方がある。

 確かに憲法は「公共の福祉」に基づく人権の制限は可能とし、私有財産は「正当な補償」の下に公共に用いることができるとする。だが、これまでの政府、自治体の要請が正当な権力の行使と言えるかは疑問だ。重点措置と宣言は人々に我慢を強いるが、それぞれの要件は曖昧なままで、説明する姿勢にも欠けている。

 不利益を被る事業者らへの支援策は不十分で、罰則導入による感染抑止効果もはっきりしない。目的と成果を検証できず、次に生かせない対策に国民の理解は得られまい。

 政権内には、この機に首相に権限を集中する「緊急事態条項」を憲法に新設すべきとの声があるが、論点のすり替えである。感染抑止は憲法が定める国の責任そのものだ。改憲論よりも、実効ある対策に全力を尽くさねばならない。

 コロナ対応に幅広い分野の英知を結集すべき局面で、菅義偉首相は従来の法解釈を曲げてまで、日本学術会議が推薦した会員6人の任命を拒否した。「学問の自由」を侵す、との批判にも応えようとしない首相の姿勢が混乱を長引かせている。

 「安倍政権が憲法解釈を変更して成立させた安全保障法制以降、法や憲法を無視して強弁で乗り切る政治が定着した。コロナ対策の混乱も地続きにある」と東京都立大の木村草太教授(憲法学)は指摘する。

 憲法を守り、法に従って政策を遂行する「法治主義」を取り戻すには「自分たちの生活を法が支えていることを見せていく取り組みが大切だ」と木村氏は提言する。

自分らしさを求めて

 自分らしく生きるためのよりどころを、憲法判断に求めた性的少数者らの裁判は示唆に富む。

 3月、札幌地裁は同性婚を認めない現行法に対し、初の違憲判断を下した。性的指向は自分の意思では選べないのに、同性というだけで相続など結婚による法的利益を一切得られないのは憲法14条の「法の下の平等」に反すると結論付けた。原告は北海道に住む3組の同性カップル。「国に立法を促すため、より強い司法判断を求める」と控訴した。

 結婚の自由を定める24条も争点だ。国は条文にある「両性の合意」をとらえ、法律婚は男女に限られると解釈し、判決も異性間の結婚について定めたものとした。だが専門家の間では、憲法は同性婚を禁止していないとする見解が少なくない。

 24条は、明治以来の「家」制度を脱し、個人の尊厳と両性の平等を宣言するために設けられた。当時は同性婚を想定していなかったとしても、すべての人に結婚の自由を保障すると考えるのは目的にかなう。

 「選択的夫婦別姓」を求める人たちも、さまざまな角度から憲法との整合性を問う訴訟を起こしている。年内にも最高裁大法廷が新たな憲法判断を示す可能性が出てきた。

 自由と権利を守るために、憲法を知り、隅々まで使いこなす。自ら行動する当事者の姿は、国民が多様な家族のかたちに共感を深めるきっかけになっている。

 コロナ禍では、誰もが不安にさいなまれ、他人の痛みを想像するのが難しい状況に置かれる。こんな時こそ憲法の理念をかみしめ、一人一人が尊重される社会の実現に希望を託してみたい。

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