社説

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 新型コロナウイルスの感染拡大で就労や社会参加の機会を失い、孤立した状況で暮らしに行き詰まる人が増えている。3度目の緊急事態宣言が拡大、延長され、国民生活のさらなる困窮が懸念される。

 政府はこのほど「孤独・孤立対策担当室」を新設し、深刻化する自殺などの問題に対応する方針を打ち出した。政府一丸となった「命を守る」ための取り組みが急がれる。

 阪神・淡路大震災の復興では「最後の一人まで」の理念が浸透した。今求められるのも、誰一人取り残さない支援である。菅義偉首相自ら対策を主導しなければならない。

 政府が孤独・孤立対策の強化を決めたのは、自殺者が増加しているためだ。昨年は総数で2万1081人と前年を千人ほど上回った。11年ぶりに増加に転じ、今年も3月まで前年を超える数字が続く。

 看過できないのが女性の自殺の増加である。男性は横ばいで、昨年の増加分のほとんどは女性だった。

 コロナ禍でサービス業などが苦境に直面している。解雇や雇い止めが累計で10万人を超え、非正規の女性労働者が雇用環境の悪化に追い詰められている姿が浮かび上がる。

 外出自粛などで心身の不調を感じる人や、配偶者の暴力による被害も増えている。ひとり親の生活は苦しく、社会的な孤立に陥る事例が後を絶たないのが実情だろう。

 同時に子どもたちの置かれた状況も危機的と言える。小中高生の自殺者数も、昨年は統計のある1980年以降最多の499人に上った。

 英国は2018年に「孤独担当相」を任命し、孤独をなくすことを政治目標に掲げた。日本では12月からようやく実態調査に乗りだすなど、本格的な政府対応はこれからだ。

 菅政権は緊急支援策をまとめ、自殺防止に取り組むNPO法人への財政支援、困窮者への公的住宅の貸し出しなどを掲げた。困窮子育て世帯への給付金を両親がそろう世帯にも広げるなど全体で60億円を充てる。

 ただ、民間団体の活動を補助する施策が目立ち、実効性を疑問視する見方がある。秋までに実施される衆院選を意識してか、生煮えのまま走りだした印象が拭えない。

 多重債務や病気、心の不調、家庭内の不和…。経済的困窮に複数の要因が重なることで「生きる力」がそがれると、自殺問題の専門家は指摘する。必要なのは、そうした要因を取り除くきめ細かな支援である。

 神戸市が子どもの孤独・孤立問題に対応する「子ども未来課」を新設するなど自治体の動きが先行している。政府もできる限りの手だてを講じるべきである。

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