社説

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 新型コロナウイルスワクチンの高齢者向け接種が本格化しつつある。菅義偉首相は、7月末までに約3600万人の接種を完了させる方針を示し、自治体に接種計画の前倒しを求めた。困惑する自治体に、首相は「1日100万回」の目標を唐突に打ち出し、混乱を助長している。

 それを如実に表すのが、接種完了時期を巡る調査である。

 総務、厚生労働両省は、全国の86%の自治体が7月末までに高齢者向け接種を終える見通しとの調査結果を発表した。兵庫を含む17府県は全自治体で完了の見込みとした。

 ところが本紙の取材で、県内の複数市町が国や県の強い働きかけで完了時期を変更したことが分かった。

 政府が7月中の完了を要請したのは大型連休の直前で、多くの自治体が計画を既に固めていた。前倒しは新たに医師や接種会場の手配が必要になり、自治体の負担は大きい。

 首相は「1日100万回」の根拠となる数字や具体的なスケジュールを示していない。実態とかけ離れた数字だとの指摘もある。無理な計画は接種の安全にもかかわる。ワクチンの供給が遅れる中、首相の顔を立てるために現場に無理を強いるような対応は看過できない。首相は、接種が円滑に進むよう支援体制づくりに指導力を発揮すべきである。

 接種の現場でも混乱が続く。

 集団接種では申し込み開始直後から予約が殺到し、電話やインターネットがつながらない。先着順にした自治体が多く、予約システムが一時停止するなどのトラブルも起きている。注射を担う医師らの確保が不十分な自治体も少なくない。そもそも先行する医療従事者への接種もいまだに終わっていない。

 そんな中、公平性や透明性に疑問符がつく行為が表面化した。兵庫県内でも、一部市町の首長が優先的に接種を受けていた。

 変異株が猛威を振るい、重症者や死者が増える中、何度も電話やネットでのアクセスを試みた高齢者が憤るのは当然だろう。キャンセル分の扱いを事前に周知するなど、住民の理解を得る努力をすべきだった。

 こうした混乱の原因が準備不足にあるのは明らかだ。加古川市が80歳以上を対象に先着順をやめ、抽選制に変更するなど、各市町が集中回避へ知恵を絞る。ネットに不慣れな人への配慮も不可欠だ。

 政府はあす、緊急事態宣言を岡山など3道県にも追加する。接種の加速が感染収束の鍵を握る。

 首相は国民や医療現場に負担を強いるばかりでなく、ワクチンを着実に届け、安全な接種を支える責任を果たさねばならない。

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