社説

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 安全保障上重要な施設周辺や国境にある離島の土地利用を規制する法案が衆院で実質審議入りした。

 自衛隊基地や原発などの周囲約1キロや国境の島を「注視区域」に指定し、土地所有者や利用状況などを調査する権限を政府に与える内容だ。特に重要な施設周辺は「特別注視区域」とし、土地・建物の売買に事前届け出を義務付ける。

 対象施設の機能を妨害する行為には中止を勧告・命令し、応じない場合は2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金を科す。

 北海道千歳市や長崎県対馬市などで、自衛隊施設周辺の土地を外国資本が買収する事例が続いたのが法整備のきっかけとされる。実体が見えない土地利用に住民が不安を抱くのは当然だ。安保上のリスク回避は国の責務でもある。

 だが一方で政府は、自衛隊の運用に具体的な支障が生じる事態は確認していないと認めている。立法事実は乏しいと言わざるを得ない。

 防衛施設や原発を狙ったサイバー攻撃など近年高まっている脅威に備える対策こそ急務ではないか。

 十分な根拠もなく、国による私権制限がまかり通るのを見過ごすことはできない。規制の及ぶ範囲を明確にし、恣意(しい)的な運用にしっかりと歯止めをかける仕組みが必要だ。

 法案の最大の問題は、調査や規制の対象が曖昧な点である。

 規制は外国人だけでなく国民にも及び、調査が土地所有者の住所、名前、国籍にとどまる保証はない。「安全保障」の名目で、政府による思想信条、家族・友人関係など個人情報の際限のない収集に“お墨付き”を与えることにもなりかねない。

 政府が想定する防衛関連の規制対象は500カ所を超える。施設や区域が広がれば、さらに多くの国民が監視対象になる恐れがある。自衛隊基地や原発周辺での反対運動が「機能阻害行為」として排除されないかを不安視する声もある。

 公明党は私権制限の拡大につながるとして一時法案に難色を示し、自民党との修正協議で規制は必要最小限とする義務規定を明記した。ただ規定をどう担保するかは不明だ。

 対象施設や調査項目は法成立後に閣議決定する基本方針などで定めるという。この手続きに国会承認は要らず、歯止めはないに等しい。

 立憲民主党は、罰則を撤廃し、私権制限の抑制や国会への事前報告などを盛り込むよう求めている。国民民主党、日本維新の会も修正案を出している。

 多くの懸念を抱えたまま、国民の自由と権利を制限する法案の成立を急ぐべきではない。国会の慎重な審議を求める。

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