社説

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 広島への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を巡る訴訟で、一審に続いて原告全員を被爆者と認めた広島高裁の判決に関し、国が上告を断念した。判決の確定に伴い、全員に被爆者健康手帳が交付される。

 原告は、黒い雨が強く降ったとして、国が定めた「特例区域」の外で雨を浴びた住民84人だ。平均年齢は80代半ばで、6年前の提訴時から10人以上が亡くなっている。

 原告だけでなく、被告の広島県、広島市も上告断念を国に要望していた。これ以上、被害者らの苦しみを長引かせるべきではなく、当然の判断である。

 菅義偉首相は、原告と同じような立場の被害者救済についても「早急に検討したい」と述べた。国は幅広い救済が可能になる仕組みづくりに、直ちに着手してもらいたい。

 高裁判決は黒い雨に直接打たれた場合に限らず、空気中の放射性微粒子を吸い込むなど内部被ばくによる健康被害もあると判断した。がんなど特定の病気の発症を認定の要件とした一審判決より範囲を広げた。

 原爆投下直後の不十分な調査を根拠に救済対象の線引きをする国の姿勢を批判し、被爆者に寄り添った画期的な司法判断と言える。

 ところが首相は上告断念を表明する談話で、高裁が内部被ばくの影響を広く認めた点について「被爆者援護制度の考え方と相いれない。政府として容認できない」とした。

 これは「国の責任において援護するとの援護法の理念に立ち返る」とした言葉と矛盾するのではないか。政府は制度についての考え方を根本的に改めるべきだ。

 県と市は2010年、住民調査を基に特例区域よりも広い範囲に雨が降ったと判断し、区域を5~6倍広げるよう国に要望した。当時この範囲に暮らし、今も生存する人は約1万3千人と推計される。

 同じ被爆地の長崎でも、国の指定地域外にいた「被爆体験者」の被爆者認定を求める裁判が続く。

 11年の福島第1原発事故でも内部被ばくは重要な問題となっている。未解明の部分は多く、国はむしろ積極的に究明を進める必要がある。

 原爆投下から76年がたとうとしている。一審判決を受けて設置され、降雨域などを検証する厚生労働省の有識者検討会では、手法そのものに異論が出るなど、いつ結論を示せるか見通せない状況だ。

 残された時間は多くない。これ以上厳密な線引きを続けるなら、幅広い救済は遠のくばかりだ。援護行政を速やかに見直し、一人一人の被害の実態に見合った救済の仕組みを早急に確立せねばならない。

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