社説

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 東京五輪とともに1年延期された東京パラリンピックが閉幕した。

 政府や大会組織委員会、東京都などは、新型コロナウイルスの感染「第5波」が猛威を振るい、緊急事態宣言が発令される中での開催に踏み切った。原則無観客で実施するという前例のない大会運営となった。

 重症化リスクの高い基礎疾患を抱える選手もおり、その命と健康への影響が懸念された。閉会式を無事に終え、胸をなで下ろす思いだ。

 障害のある選手たちはひたむきに競技と向き合った。人間の持つ可能性に驚き、心を動かされた人は多かっただろう。車いすテニス女子の上地結衣選手が銀メダルを獲得するなど、兵庫ゆかりのアスリートも躍動した。厳しい状況下でも大会を開催した意義は大きかったと言える。

 ただ、運営などで多くの課題が浮き彫りになった。コロナの重症者が出なかったのは幸いだが、大会関連で陽性者が300人以上判明した。

 感染拡大が心配された「学校連携観戦プログラム」は、取りやめる自治体が続出しながらも実施された。途中、引率教諭の感染判明で千葉県と市が中止する事態となり、慎重論を押し切った組織委などの姿勢には、疑問を抱かざるを得ない。

 大会中に事故も起きた。神戸市出身で視覚障害のある柔道男子の選手が、選手村で自動運転バスと接触して負傷した。選手は欠場を余儀なくされた。卓球会場では車いすの選手がリフト付きバスから降りる際、ワイヤが切れて落下した。事故の原因究明や検証が求められる。

 熱中症になった選手も相次ぎ、診療所に搬送されたケースもあった。

 残念ながら、政府や組織委が掲げた「安全、安心の大会」が実現できたとは言えまい。

 一方で、大会を機に、国際パラリンピック委員会が障害者の人権を守るキャンペーン「We The 15」を始めた意味は大きい。世界人口の15%、約12億人の障害者への差別や偏見をなくすため、10年間かけて展開する。人々の意識や社会の変革を促す、その意義を国内外へ広く発信していかねばならない。

 今後の懸案の一つは、五輪を含めた財政負担の問題である。延期やコロナ対策で大会経費は昨年末時点で1兆6440億円に膨らんだ。酷暑対策などの費用も加わる。無観客開催に伴い組織委の収支も赤字になる見込みで、その穴埋めも必要だ。都と国が公費で負担するなら、国民が納得できる説明が欠かせない。

 東京大会は幕を閉じたが、残された課題に真摯(しんし)に向き合い、検証する必要がある。その責任を果たしていくことが、共生社会の実現や多様性の尊重への一歩になるはずだ。

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