社説

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 ドイツ初の女性首相として16年にわたり政権を率いたメルケル氏が退任する。このほど実施された総選挙の結果を基に新政権が発足すれば、政治活動に終止符を打つ。

 「ドイツの母」と呼ばれたメルケル氏は、国境を超えて広く親しまれた。卓越した指導力で「欧州の女王」の異名も取ったが、物腰は柔和で、日本でも人気を博した。

 欧州通貨危機など非常事態に何度も直面しながら、その都度、国民に語り掛けて支持を得た。新型コロナ対応でも、ロックダウン(都市封鎖)で「移動の自由」を制限する理由を苦渋の表情で説明し、「今は大戦以来最大の難局です」「一人一人が愛する人を守って」と訴えた。

 政治への信頼をつなぎ留めるためには、言葉が持つ説得力が欠かせない。そのことを深く理解し、実践した政治家の一人だった。

 一方、わが国の政府、与党幹部らは、重大な問題に関する国民の疑念に正面から向き合おうとせず、丁寧な説明を避け続けてきた。対照的な政治姿勢は、日本の政治の在り方を見つめ直す手掛かりにもなった。

 メルケル氏はいまや先進7カ国(G7)の首脳で最も長く在籍するリーダーである。退任後は疲れを癒やしてもらいたいが、ドイツの政治事情が当分それを許しそうもない。

 メルケル氏個人の人気と裏腹に、先日の総選挙では、自らが所属する保守政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大敗し、中道左派の社会民主党(SPD)が第1党となった。

 ただ、SPDも過半数に届かず、複数の政党間で連立交渉が続いている。ドイツでは合意内容の文言を詰めるまで、調整に時間がかかる。過去には半年かかった例もある。

 現政権のようにCDU・CSUとSPDの左右二大政党が大連立を組む可能性もあり、次の枠組みが判明するには時間がかかりそうだ。それまでは退任を表明したメルケル氏が引き続き国政を担うことになる。

 今回の総選挙では、環境保護政党「緑の党」が第3党に躍進し、地球温暖化対策への関心の高さが浮き彫りになった。経済成長との両立をどうするか、環境政策が「メルケル後」を占う要素となるだろう。

 原発を推進した保守政党の党首でありながら、東日本大震災の原発事故後に脱原発へと方針を転換した。徴兵制廃止にも踏み切り、難民への寛容な政策を打ち出すなど、人権や自由を重視した。旧東ドイツ出身で、独裁体制の抑圧を体験したメルケル氏ならではの姿勢と言える。

 欧州最大の経済大国ドイツがメルケル氏の「遺産」をどう継承するか、動向に目を凝らしたい。

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