社説

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 岸田文雄首相は「新しい資本主義」を目指すとしている。経済成長一辺倒の政策を見直し、「成長と分配の好循環」を実現することで格差是正につなげるという。

 安倍晋三政権が推し進め、今に続く経済政策アベノミクスは、中間層を細らせ、貧富の差を広げた。同じ路線を走り続ければ、社会を深く分断しかねない。危惧する国民は多いはずだ。

 人口減少が本格化している。将来に希望の持てる持続可能な社会を築くには、富の再分配を強化せねばならない。公正な分配はどうあるべきか、与野党は具体策を示して徹底的に議論してほしい。

 衆院はきょう解散する。「アベノミクス後」の社会を描くには、拡大・成長優先主義がもたらしたものにいま一度目を凝らす必要がある。

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 最近、「親ガチャ」という若者言葉が流行し、物議を醸している。

 カプセル入りのおもちゃが無作為に出てくる「ガチャガチャ」にちなみ、ネットのゲームでアイテムを入手するためのくじ引きを「ガチャ」という。つまり、親ガチャには「どんな境遇に生まれるかは運次第」との意味がある。

 「『私、親ガチャに外れたわ』とか、周囲も軽いノリで使う」と神戸市の女子大学生(20)は話す。親の収入や学歴によって子どもの人生の選択が左右される現状を、冗談めかして表現しているらしい。これに対し、親や祖父母の世代からは「親のせいにせず、自分で努力しろ」との声が上がる。

 上の世代が苦言を呈したくなる気持ちは分からなくはない。しかし、細心の注意が必要だ。格差の固定化が進み、家庭の経済事情などで頑張ろうにも頑張ることができない人が少なくない。実際、日本の子どもの貧困率は世界的にも高い。

 重要なのは、格差拡大や貧困を個人の責任に押し込めず、社会全体の問題として捉え直すことだ。自己責任論をかざして若い世代を批判しても、閉塞(へいそく)感が強まるだけである。

富は波及しなかった

 金融緩和、財政出動、成長戦略の3本柱から成るアベノミクスは、トリクルダウン理論に基づいている。大企業や富裕層が潤えば、中小企業や庶民にも恩恵が波及する-というものだ。

 しかし、富がしたたり落ちる(トリクルダウン)現象は起きなかった。企業は利益を増やしても賃上げや研究開発へ十分に回さず、内部留保を積み上げている。その額は2020年度まで9年連続で過去最高を更新した。一方、稼ぎに占める人件費の割合を示す労働分配率は下がり続ける。しかも、大企業ほど分配率が低い。日本の平均所得は先進国で唯一、伸びていない。

 果たして、働き手は正当な労働の報酬を得ているだろうか。これでは暮らしへの安心感が持てず、個人消費が伸びないのは当然だ。デフレ脱却も全く見通せない。

 首相は、アベノミクスを継承しつつ分配にも力を入れるという。ならばトリクルダウンに基づく経済政策からの転換が先である。衆院選公約に掲げる「分厚い中間層を再構築」の具体策を、早急に示すべきだ。

窮状を軽視する政治

 昨年8月、安倍元首相は辞任会見で「400万人を超える雇用をつくり出した」と自賛した。確かに、12年12月の政権発足時と比べ、就業者はピーク時で547万人増えた。完全失業率はバブル期並みに改善し、有効求人倍率も高度成長期に並んだ。一定の成果はあったといえる。

 ただ、不安定な非正規雇用は最大375万人増加した。そして非正規の7割近くは女性である。安倍政権は成長戦略の一環で「女性活躍」の旗を盛んに振ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が直撃しているのは非正規で働く女性たちだ。

 政権を引き継いだ菅義偉前首相は、コロナ禍の国民の窮状を直視することなく、「自助」を強調した。

 昨年、自殺した男性が減った半面、女性は増えた。雇用の「調整弁」となった状況と無関係ではないだろう。女性活躍の実情を厳しく検証せねばならない。

 「ピンチをチャンスに変え、われわれが子どもの頃に夢見た、わくわくする未来社会をつくろうではありませんか」。岸田首相は所信表明演説でこう呼び掛けた。

 若い世代が夢や希望を持てる社会の在り方とは何なのか。先行世代が一緒になって、今こそ真剣に考えるときである。来る総選挙を、その契機としたい。

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