社説

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 岸田文雄首相はきのう衆院を解散した。総選挙は19日公示、31日投開票の日程で実施される。

 2017年10月以来、4年ぶりの政権選択選挙は、相次いで退陣した安倍晋三元首相と菅義偉前首相の政権運営に審判を下す機会でもある。強権的な姿勢が目立った「安倍・菅政治」の約9年間をどう総括し、どう乗り越えるかは大きな争点だ。

 課題は直面する新型コロナウイルス対策と経済再生策にとどまらない。世界的な潮流である分配機能の強化、財政再建、気候危機の克服など持続可能な社会に変わっていくための政策転換が問われている。

 国民との対話を通じて政治への信頼を取り戻し、民主主義を再生するための選挙としなければならない。

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 首相就任からわずか10日での解散、解散から17日間での投開票は、いずれも戦後最短となる。岸田首相は「一日も早く国民の審判を仰ぎ、思い切ったコロナ対策、経済対策を行うため」と説明した。

 だが、首相指名を受けた臨時国会は所信表明演説と各党の代表質問を実施しただけで、野党が求めた一問一答形式の予算委員会は開かなかった。看板を替え、メニューは並べたものの、詳しい問い合わせには応じないと言うようなものだ。

 「聞く力」が自分にはあると首相は力説するが、野党との論戦を避けるようでは、これまでの安倍、菅政権と何ら変わらない。選挙での信任は政策への白紙委任ではないと、あらかじめくぎを刺しておきたい。

格差と分断深めた

 12年12月の政権復帰以来、解散の「大義」よりも自分に有利なタイミングを優先し、選挙で勝利を重ねてきたのが安倍氏だった。集団的自衛権の行使を一部容認する安全保障関連法など、国民の懸念が根強い政策を数の力で推し進めた。

 昨年9月、政権を引き継いだ菅氏がまず手がけたのが、日本学術会議の会員候補6人の任命拒否だったのは象徴的だ。理由の説明はなく、意に沿わない人物を排除するのに権力を使った、との疑いは消えない。

 批判に耳を傾けず、異を唱える者を遠ざける手法で確立された「1強政治」は、官僚が政権に忖度(そんたく)する風潮を生んだ。議論を通じて合意を形成する国会の機能を著しく低下させ、社会の格差と分断を深めた。

 こうした政治手法のほころびがあらわになったのがコロナ対応だ。

 安倍政権が独断で決めた布マスクの配布や全国一斉休校は、国民の不安を解消するどころか混乱に拍車を掛けた。菅政権では、肝いりの「Go To」事業が感染拡大で中止に追い込まれる一方、1年延期された東京五輪・パラリンピックは緊急事態宣言下で強行開催した。

 説明する言葉が足りず、政策決定の透明性を欠く。専門家の助言や多様な声を聞き入れない。独善的な政治では国民の命と暮らしを守れず、両政権がコロナ下で行き詰まったのは当然の帰結だろう。政治と国民の信頼関係を築き直す必要がある。

国民に響く言葉を

 主な争点として浮上したのは、格差是正を巡る考え方だ。成長優先か分配重視か、対立軸が次第にはっきりしてきた。

 首相は「新自由主義的政策の転換」を掲げ、「成長と分配の好循環」によって中間層を再構築するとした。ただ自民党の公約ではアベノミクスの3本柱を残し、検討を示唆していた金融所得課税の見直しも先送りした。市場の反発を懸念してか、政策転換の本気度は伝わってこない。

 立憲民主党は「好循環の出発点は適正な分配にある」として分配に力点を置く。富裕層を照準に課税強化を打ち出すなど、違いを強調する。

 税と社会保障の在り方にも深く関わるテーマだ。各党は選挙戦で踏み込んだ議論を交わしてもらいたい。

 国民の声が政治に届かず、政治の訴えが国民の心に響かない。岸田首相はこうした政治の現状を「民主主義の危機」と指摘している。

 ならば安倍、菅政権の「負の遺産」を清算する覚悟を自ら示すべきだ。森友学園を巡る公文書改ざんの再調査、日本学術会議の任命拒否の撤回、相次ぐ「政治とカネ」の問題への対応がその試金石となる。

 選択的夫婦別姓制度の導入など多様性を尊重する政策は若い世代を中心に関心が高い。各党の違いは鮮明で、重要な選択肢になるだろう。

 まれに見る短期決戦である。外交、憲法改正、原発政策など論点は多岐にわたる。目指す社会像を明確に描き、有権者に判断材料を示す政党の責任は、いつにも増して重い。

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