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 神戸市北区で2017年、祖父母ら男女5人を殺傷したとして、殺人や殺人未遂などの罪に問われた男性被告(30)の裁判員裁判で、神戸地裁が無罪判決を言い渡した。

 裁判長は「被告は統合失調症の影響で心神喪失状態だったとの合理的な疑いが残る」と述べた。

 公判で、被告は起訴内容を認め、事件当時に被告が統合失調症だった点にも争いはなかった。ただし検察側は被告について、善悪の判断などが残る心神耗弱状態だったとし、無期懲役を求刑していた。

 複数の人が殺害された事件で、被告の刑事責任能力を否定し、無罪とするのは異例だ。だが刑法は心神喪失者は罰しないと定めている。心神喪失の疑いが残る以上、「疑わしきは被告の利益に」の原則に沿わざるを得ないとの判断といえる。

 被告は、祖父母と近くに住む女性を包丁で突き刺すなどして殺害し、母親と別の女性も負傷させたとして起訴された。傍聴した遺族は、被告の命が法律で守られた判決に到底納得できないとコメントした。負傷した被害者も「ようやく取り戻しつつあった安心が一気に崩れ去った」とし、地検に控訴を求めた。

 遺族や被害者の心情や処罰感情は十分に理解できる。それだけに、一般市民から選ばれた裁判員は難しい判断を強いられたことだろう。

 統合失調症の影響を巡り、精神鑑定をした医師2人の見解は割れていた。裁判員の1人は「専門家でも、(症状などを)確定するのがいかに難しいかを知った」と話した。専門性の高い問題を論じて重大犯罪を裁く重圧は、想像に余りある。

 裁判員制度は導入から12年を超えて、刑事裁判に市民感覚を反映させるために欠かせなくなった。市民の参加意識を維持するには、対象とすべき事件を改めて議論するなど、今回のような過度な負担を軽減する方法を検討しなければならない。

 一方、刑事訴訟法の専門家は「無罪が確定しても、法律に基づく入院治療措置になる可能性が高く、刑罰の代わりに治療をすることも『正義の形』」との見方を示す。

 措置入院は症状が重い精神障害者に、強制的に治療を受けさせる制度だが、退院後のフォローなど課題が多い。15年に洲本市で5人が刺殺された事件では、被告は心神耗弱状態だったとして無期懲役となった。被告は措置入院後、在宅での治療が中断されていた。この教訓から、兵庫県では措置入院した人たちを退院後も見守る支援制度を導入した。

 こうした事件を減らすには、社会の偏見を解消しつつ、適切な治療や当事者の見守り、地域での支援を重ねていくことが重要になる。

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