社説

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 新型コロナウイルスに覆われた一年が暮れ、新たな変異株が拡大する中で年が明けました。立ち止まり、見えてきたのは弱い立場の人がより苦しむ、多様性に乏しい社会のもろさです。このままで気候変動や格差の拡大、深まる分断など将来の危機を乗り越えられるのでしょうか。

 その影響を受ける若い世代を中心に足元から生きやすい社会を目指す試みも始まっています。手遅れになる前に、その芽を育て、変革へとつなげられないか。現場を訪ねます。

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 兵庫県が豊岡市に創設した芸術文化観光専門職大学には、昨年4月の開学以来、自治体関係者らの視察が絶えません。演劇的手法を採り入れた授業など独自のプログラムに加え、地域とのつながりを重視する教育方針が注目されています。

 1期生は84人。神戸出身の西美咲さんは高校時代に島根県の隠岐諸島へ「島留学」し、自然豊かな地方の観光振興に貢献したいと考えています。同じく神戸出身の白木翠さんは「伝える仕事」に興味を持っています。2人とも「ここでしか学べないものがある」と言い、「東京進学は考えなかった」と口をそろえます。

 自分の可能性を広げてくれる環境さえあれば、東京である必要はない。既存の価値観を軽々と超えた若者たちが、全国からこの大学を目指します。但馬地域にどんな変化をもたらすか楽しみでなりません。

 大人たちも動きます。一般社団法人「豊岡アートアクション」は、市民有志を募り、地縁のない学生が気軽に立ち寄れるホストファミリー制度を試みます。イベント企画などに携わる小山俊和さんは「地域に学生の居場所があり、後押しする大人がいることが大切」と話します。

 子育て支援をいくら拡充しても、若者や女性が都会から戻らないと悩む自治体は少なくありません。その難題を解くヒントがありそうです。

大人たちへの失望

 日本の若者は、世界の「Z世代」に比べ、現状維持を望み、保守化していると言われます。

 「自分の意思で社会は変えられるという成功体験を示してこなかった大人の責任」。こう指摘するのは、気候変動や格差拡大など地球規模の危機を抜け出すため「脱成長」の社会システムに変革を、と唱える大阪市立大の斎藤幸平准教授です。

 安全神話が崩れた原発への依存を続け、「脱炭素」を掲げながら石炭火力発電の延命を図る。国と地方の借金を膨らませ、根深い男女不平等や広がる格差をただそうとしない。おかしいと声を上げる代わりに忖度(そんたく)やごまかしに走る。こんな大人は、失望されても仕方ないでしょう。

 同時に斎藤さんは、本気で怒る人が一人でも行動を起こすことに期待し、「自治体や市民レベルでやれることはある」と呼び掛けます。

対立より対話から

 市民発電や有機農業を広げる、首長や議員になる-。こうした実践はもう身近にありますが、踏み出す人がどれだけいるか。社会変革は一人ひとりの一歩から始まるのです。

 若い世代は、ジェンダー平等や社会貢献への意識が高い特性もあります。男性中心、経済成長優先の仕組みが変わらなければ、自分たちの生きづらさは変わらない。そう気づいて行動する若者がいます。

 昨年、経済的事情で生理用品が買えない若い女性の「生理の貧困」への支援を訴えた大学生らのネット署名が、多くの自治体を動かし無償配布が広がりました。ソーシャルメディアで切実な声を集め、データを分析し、対話で共感を広げる。思えば、国内外の問題解決に最も足りない姿勢ではないでしょうか。

 専門職大学学長で劇作家の平田オリザさんは学生たちに、好奇心と謙虚さ、異なる価値観への共感の大切さを説きます。安定を求める日本の若者にも「対立ありきでない、新たな社会変革のかたちがあるのでは」と温かい視線を注ぎます。

 若い世代の挑戦を応援し、自らも行動する大人が増えれば、未来はもっと早く変えられるはずです。

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