社説

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 「シーセッション」という言葉を聞いたことがありますか。

 英語の「シー(彼女)」と「リセッション(景気後退)」を合わせた造語で、「女性不況」と訳します。新型コロナウイルスの感染拡大が浮き彫りにした世界共通の問題です。

 コロナ禍で職を失ったり、収入減に見舞われたりした人は大勢います。特に深刻な打撃を受けたのが、宿泊や飲食などのサービス業で働く非正規雇用の女性たちです。日本のシーセッションは先進国の中でも過酷といわれ、少子化のさらなる加速が心配されています。

 しかし、社会問題として十分に認識されているとは言えません。残念ながら、昨年の衆院選でも議論は低調でした。なぜなのか。政治の現状に目を向けてみましょう。

    ◇

 兵庫県内の市町議会で昨年、ある動きが相次ぎました。加西市や三田市、播磨町などが、議会運営のルールを改正したのです。

 議員の産休期間について「産前6週、産後8週」と明記し、議会の欠席が認められる理由に「育児」「介護」「看護」の項目を加えました。全国市議会議長会などが「ひな形」となる会議規則を改めたことを受けての対応です。他府県の議会でも同様の動きが見られました。

問題を可視化する

 実は、全国の議長会に働きかけたのは女性の地方議員たちでした。

 労働基準法の産休や育休制度の対象に議員は含まれず、家庭生活との両立に苦労するケースは少なくありません。そこで、全国の女性議員らでつくる「出産議員ネットワーク」と「子育て議員連盟」の計約250人が、現場の実態や問題点を指摘して支援策を求めてきました。

 当事者の切実な声と行動が、事態を動かしたのです。

 「大半の議会は中高年男性が圧倒的多数で、かつては議員が出産するという想定自体がなかった」とは、出産議員ネットの関西ブロック代表で2人の子どもがいる兵庫県議の相崎佐和子さん(48)。同じく子育て中の神戸市議、平井真千子さん(45)は「女性だけでなく、若い人やさまざまなバックグラウンドを持つ人が議員になれる環境整備が求められる」と話します。

 「女性のいない民主主義」。政治学者の前田健太郎・東京大学大学院教授は、政治権力が男性に集中する日本の現状をこう表現します。

 数字上でも女性の「不在」は明らかです。昨秋の衆院選で当選した女性はわずか9・7%で、世界平均の25・8%に遠く及びません。候補者数を男女均等にするよう政党に求める法律の施行後初の衆院選だったにもかかわらず、候補者に占める女性の割合は17・7%でした。

役割意識を超えて

 兵庫県の場合、女性議員は県議会で15・1%、市町議会は18・1%にとどまります。県内の議員からは「有権者の間にも『政治は男がするもの』という旧来の役割意識が根強い」との声が聞かれます。

 前田教授は自著で次のように指摘しています。「女性議員の少ない日本では、男性有権者と女性有権者の意見が分かれる項目において、女性有権者の意見は代表されにくいと考えられる」。国内外の調査や研究からは、女性議員は女性の意見を代表し、女性にロールモデル(手本)を提供するという結果が導かれることが多いといいます。

 シーセッションが吹き荒れる日本では、働く女性の自殺が増えています。若い世代への支援策も乏しいのが現状です。経済的な理由から学業を諦める若者がいます。一昨年の一斉休校や、大学での対面授業の抑制などがもたらすマイナス面は十分に検証すらされていません。

 政治は暮らしに直結する意志決定の場です。性別や年齢層に大きな偏りがあるままで、果たして公共の利益を実現できるのでしょうか。

 弱い立場の人が取り残されず、多様性がもっと尊重される社会へ向け、私たち自身、そして政治を変える努力を重ねていく必要があります。

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