社説

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 岸田政権が発足して3カ月余りが過ぎた。「聞く力」を発揮し、一度決めた方針の修正もいとわない岸田文雄首相の姿勢は、「数の力」を武器に、強権的な手法が目に付いた安倍、菅政権につきまとった重苦しい空気を変えつつある。

 だが、新型コロナウイルスの新たな変異株の急拡大は、経済の回復どころか社会を機能不全にしかねない。政治不信を招いた安倍、菅政権の「負の遺産」は放置され、首相が目指す社会像は曖昧なままだ。

 課題が山積する中で、あす17日から通常国会が始まる。批判や疑問に向き合い、国民に届く言葉で語り、政治への信頼を取り戻せるか。論戦を通じて、首相が掲げる「丁寧で寛容な政治」の内実を明らかにしなければならない。

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 岸田内閣でもコロナ対策の迷走や「政治とカネ」の問題は相次ぐが、報道各社の世論調査で内閣支持率は60%前後を維持し、発足時より上昇傾向にある。実績評価以前に、政権運営の変化そのものを歓迎する国民が多いことの表れと言える。

 首相が前政権を反面教師としているのは明らかだ。特に最優先課題のコロナ対策では、「後手」との批判を受けないよう細心の注意を払ってきた。世論の反発を察知すると、すぐに軌道修正してみせる。

 18歳以下への10万円給付で、クーポン配布に自治体が難色を示すと現金一括支給を認めたのが典型だ。大学入試では濃厚接触者の受験を認めない文部科学省の方針を改め、国土交通省が水際対策で要請した国際線新規予約の一律停止も撤回した。

 当初方針にこだわらず、柔軟に見直していく姿勢は安倍、菅政権とは大きく違う。情勢が刻々と変わる感染症対策には必要な要素だろう。

 ただ、朝令暮改の連続は国民の混乱を深め、政権への求心力を削ることも忘れてはならない。

首相の理念はどこに

 こだわりのなさは「理念なき政治」の危うさにも通じる。

 経済政策の看板「新しい資本主義」の輪郭はいまだはっきりしない。当初は格差是正と分配政策を重視するかに見えたが、今は「成長と分配の好循環」を強調するばかりだ。

 被爆地・広島選出の首相は「核なき世界」へ国際社会をリードすると表明しつつ、核兵器禁止条約締約国会議へのオブザーバー参加を否定する。また9条を含む憲法改正に意欲を示し、専守防衛を踏み越えると懸念される「敵基地攻撃能力」の保有も排除しない構えだ。

 首相はどんな社会の姿を描いているのか。そこが曖昧なまま、ソフトなイメージに惑わされ、国のかたちに関わる基本政策がなし崩しに改変される事態は避けねばならない。

 コロナ禍の先には、人口減少と社会保障制度の維持、財政再建など国民の負担を伴う課題が待つ。首相は目指す社会像を明確に示し、国会での論戦に正面から臨むべきだ。

 首相は、自民党総裁選で「民主主義の危機」と繰り返し、「政治と国民の心が離れてしまった」と語っていた。にもかかわらず、森友学園問題や桜を見る会を巡る疑惑の再調査は否定し、日本学術会議会員の任命拒否は撤回しない。先の政権が積み残した疑惑や不祥事に幕を引こうとする姿勢は鮮明になった。

 国民の疑念を解消せずに、状況は改善されたというのか。国会で引き続き究明すべき問題である。

野党の役割見つめて

 今夏には参院選がある。与党が勝利すれば、首相は3年後の参院選まで国政選挙をしなくていい「安定期」を手にする。野党が勝てば、政治情勢は一気に流動化する。

 極めて重い選択の機会を前に、国会を、有権者に選択肢を示す政策論争の場としなければならない。

 野党の役割は大きい。体制を一新した立憲民主党は「政策立案型」を意識するあまり、批判や追及が甘くなった印象だ。政権を監視し、政治に緊張感をもたらす野党第1党の責任を見つめ直してもらいたい。

 野党がばらばらでは変化は起こせない。野党共闘の結集軸となるためにも、与党以上に有権者の声を聞き、政策に反映する努力が必要だ。

 異論に耳を貸さず、真摯(しんし)な議論を避け続けた安倍、菅政権の下で国会そのものの機能低下が指摘される。

 文書通信交通滞在費の見直しを先送りするなど、自分に甘い政治家の姿が一層失望を深めている。

 国会議員は自らの身を律し、与野党それぞれが目指す社会像を掲げて政策を競い合う。国会のあるべき姿を取り戻さねばならない。

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