社説

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 阪神・淡路大震災が起きてから27年の月日が流れた。1月17日は亡くなった人たちを追想した。まちの復興に向け、被災者が苦闘を重ねてきた道のりを思い返した。

 新型コロナウイルスの影響で、昨年に続き中止や縮小を余儀なくされた行事が目立ったが、神戸・三宮で開かれた「1・17のつどい」では多くの人が竹灯籠に手を合わせた。

 収束が見えぬコロナ禍に、災害や危機に強い社会を求める思いはむしろ強まった。震災後の生活再建の過程で培われた仕組みを生かし、コロナ禍や想定される巨大災害を乗り越える公的支援の議論を深めたい。

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 コロナ禍は社会・経済活動に影響を与え、人々の生活が脅かされている。震災と同様に「災害」と捉えるべきものだ。緊急事態宣言などに伴い、飲食店などが休業や営業時間短縮を繰り返した。政府は協力金を支給したほか、国民に一律10万円を給付した。昨年末からは18歳以下への10万円相当の給付が始まった。

 困窮者への支援は不可欠だが、給付の在り方を巡って、政府は迷走を重ねた。とりわけ一律の現金給付では、選挙で支持を得るための「ばらまき」との批判も浴びた。公的支援の目的や意義が問われている。

 ここは「人間の国」か

 甚大な被害を受けた阪神・淡路の被災地では生活再建が進まず、震災1年を過ぎたころから公的支援を求める声が強まった。これに対し、政府は「個人の損失に直接補償しない」との原理原則を崩さなかった。

 国のかたくなな姿勢に、被災地では市民、行政、政治家、法律家らを交えた議論と運動が巻き起こった。公的支援とは何か。根本から話し合った点で、画期的だった。

 西宮市で被災した作家の小田実さんは、1996年に「市民=議員立法実現推進本部」をつくり、支援のための法律制定を目指した。「生活基盤の回復への援助は、国がまず取り組むべきもの」とし、法律ができないなら「ここは人間の国ではない」と厳しい言葉で世に問うた。

 大蔵省(現財務省)などの主張は「私有財産の形成に公費は出せない」というものだった。

 ところが災害救助法には「金銭を支給してこれ(救助)を行うことができる」とあった。日弁連会長も務めた神戸の弁護士、北山六郎さんは「天災で被害を受けた個人を救うことそのものに公共性がある」と訴えた。「公的支援で人が帰れば地域が復興する。形としては個人補償であっても結果的には社会全体を救う」。その論理には説得力があった。

 当時は「公助」が理念から論じられた。これに対し、コロナ対策の公的支援では「10万円」の根拠や公益性が曖昧で、政府の説明も十分ではない。ご都合主義とも取られかねないその場しのぎの対応では、長引くコロナ禍で危機にある人々の生活再建を支えきれないのではないか。

 新たな災害に備えて

 被災地での運動は、兵庫県と日本生協連、全労済協会などが結成した「自然災害に対する国民的保障制度を求める国民会議」も推進した。2400万人の署名を集めて国会を動かし、98年に被災者生活再建支援法が成立、個人補償の道を開いた。

 法律は改正を経て最大300万円が支給されるようになった。多くの自然災害で適用され、被災者の生活再建を支え、自助努力を促す上でも欠かせない制度として定着した。

 だが課題もある。例えば半壊住宅の全てが支援の対象になるわけではない。住宅の被害だけでなく、一人一人の実情に応じた支援計画の制度化が必要との提言もある。

 南海トラフ巨大地震や首都直下地震が起きれば、深刻な被害が予想される。風水害は毎年のように起きている。理念なき「ばらまき」を繰り返す政治に任せるだけでは、大災害に備える公的支援の拡充は難しい。

 阪神・淡路では、被災地が声を上げ続けることで制度ができ、改善にもつなげてきた。その経験と教訓を生かし、市民が主体となった公助の議論を積み上げていくべきだ。

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