社説

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 東京都文京区の東京大学前の歩道で、大学入学共通テストの受験生ら3人が包丁で背中を刺された事件から1週間が過ぎた。72歳の男性は重傷、高校3年の男女は命に別条はないものの、受験の機会を奪われた。

 警視庁は名古屋市に住む私立高校2年生の少年(17)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。試験会場での襲撃など想像もできず、言葉を失う。被害者の回復を祈るばかりだ。

 事件が起きたのは試験開始の約1時間前だった。東大の試験会場ではストレスによる欠席者も出た。ショックを受けた受験生は少なくないに違いない。大学入試センターは、途中帰宅した受験生も追試験を受けられるようにした。影響を最小限にとどめるため救済策についてはできるだけ柔軟に対応してもらいたい。

 逮捕された少年は医師になるために東大を目指していたという。「1年前から成績が振るわなくなり自信をなくした。人を殺し、罪悪感を背負って切腹しようと考えた」などと動機に関わる供述をしている。

 少年は刺傷事件の直前、地下鉄の車内と駅構内8カ所で放火をしようとしたとみられる。包丁やのこぎり、可燃性の液体を準備し、現場を下見したり着替えたりしていた。

 供述内容そのものに加え、衝動的にも見える動機と周到な計画との落差など、容易には理解し難い。本人の受験まで1年を残す中、なぜ将来を悲観したのか。なぜ無関係の人を巻き込んだのか。捜査や家裁の審判で明らかにする必要がある。

 少年は愛知県内有数の進学校で学んでいた。現場で自分の高校名やその偏差値とともに「来年、東大を受験する」と叫んだという。それだけで心中を推し量るのは早計だが、幼さと同時に痛々しさも感じる。

 事件後、少年の通う高校は「身勝手な言動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況の中で引き起こされたもの」などとするコメントを出した。コロナ禍で学校行事の多くが中止になったこともあり、「勉学だけが学校生活の全てではない」というメッセージを伝えられなかったと反省を述べている。

 コロナ禍中の高校生を対象にした調査では、孤独を感じたり、死を考えたりする若者が少なくないという結果が出ている。少年が孤立していたのだとすれば、コロナ禍の影響を含め、その過程や背景を理解することが再発防止には欠かせない。

 懸念されるのは、東京・京王線の乗客刺傷事件や大阪のビル放火殺人事件など、死への願望を抱いた無差別襲撃が続いていることだ。同種の事件の連鎖は何としても断たねばならない。その芽を摘む手だてを社会全体で考えていきたい。

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