参院選買収事件/「もらい得」は許されない

2022/03/22 06:00

 河井克行元法相と妻の案里元参院議員による参院選広島選挙区の買収事件で、現金を受け取った広島県議・市議ら34人が一転して起訴された。検察当局はいったん一律不起訴としたが、検察審査会の「起訴相当」議決を受けて結論を覆した。 関連ニュース 出処進退「首相自ら判断」 参院選大敗で自民小林氏 7月の参院選比例代表得票 各党市議らはどう見たか 自民会派会長「自滅」と分析 立民、執行部批判続出 参院選不振で刷新要求も

 選挙違反は民主主義の根幹を揺るがす犯罪であり、有権者への裏切りである。買収側だけでなく、被買収側も刑事責任を問われるのは当然だ。公選法は双方を処罰すると規定し、「もらい得」は許されない。
 元法相は買収の罪で実刑が確定し、県議らも現金受領を認めている。それを不問にした検察の判断は国民が納得できるものではなく、市民から選ばれた検察審査会がそのゆがみをただしたかたちだ。異例の大規模買収事件の全容が、公開の裁判で明らかにされる意義は大きい。
 だが、検察の姿勢にはなお疑念が残る。東京地検特捜部は、公選法違反容疑で告発された100人のうち死亡した1人を除く全員を起訴猶予とした。現金は受け取ったが「受動的な立場だった」と判断した。
 これに対し、検審は「金銭受領が重大な違反行為であることを見失わせる」と指摘し、金額や返金の有無などを基準に、35人を「起訴相当」と議決した。
 検察は再捜査で、買収を認め辞職するなどした25人を略式起訴とした。否認したとみられる9人は在宅起訴され、正式裁判となる。体調不良の1人は改めて不起訴とした。
 検察側は、検審の議決を丸のみしながら、当初の不起訴は妥当だったとする。ならば、なぜ判断を転じたのか。公判を通じて根拠や経緯を真摯(しんし)に説明するべきだ。
 捜査手法への批判もやまない。
 元法相は自身の公判で、検察の意に沿う供述をすれば受領側は起訴しない「裏取引」があったと主張した。複数の議員が会見で「河井氏の処罰が目的だから協力して」などと言われたと訴えている。検察当局は否定するが、元法相という「大物狙い」に執心し、地方議員の立件を軽んじたと疑われても仕方がない。
 起訴された議員の一部は、現金授受は「普通」「儀礼の範囲」と釈明する。党や国会議員から「餅代」「氷代」をもらう慣習があり、今回も違法な買収との認識はなかったという。こうした悪弊が、金権政治の温床になっているのではないか。
 この参院選では、自民党本部から河井夫妻側に1億5千万円もの資金が提供されており、その使い道もはっきりさせる必要がある。
 検審の議決は、裁判を通じて「政治とカネ」の実態解明を望む民意でもあろう。政治も司法も、その声に応えねばならない。

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