5千円支給案/選挙目的の疑念拭えない

2022/03/27 06:00

 政府、与党が年金生活者の支援を目的に、1人当たり5千円の「臨時特別給付金」を支給する案を検討している。

 年金支給額は物価や賃金変動に伴い毎年改定され、今年は4月分から0・4%引き下げられる。給付金は年数千円の減額への措置とされるが、突然浮上してきた感が強い。1回限りの支給による効果や対象を高齢者に絞る点など疑問も尽きない。
 支給案は、年金に頼る高齢世代の不安に対応するためとして自民、公明両党幹部が岸田文雄首相に申し入れた。既に10万円の給付を受けた住民税非課税世帯などを除く高齢者ら約2600万人が対象になる。困窮度にかかわらず一律に5千円を支給する内容であり、低所得者対策に当たるとは言い難い。
 賃金を重視して年金額を変動させる新ルールを2021年度に導入したのは、現役世代の負担能力を考慮し、財源を確保するためだ。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言などで営業休止を強いられたり、職を失ったりした現役世代は多い。年金生活者だけが給付金の対象では公平さを欠く。
 見過ごせないのは4、5月分の年金支給日が6月になることだ。参院選の直前であり、年金減額への反発を避けるために給付金を検討しているとの疑念は拭えない。野党も「参院選目当てのばらまき」と批判を強めている。当然だろう。
 共同通信社が今月実施した世論調査では、支給案を「適切だと思わない」とする回答が66%を占めた。自民、公明の各支持層でも同じ回答が過半数に達しており、国民の厳しい目が向けられているのは明らかだ。
 与党内でも「恥ずかしい政策」とする声がある一方、一昨年の10万円給付に比べて少額である点を問題視し、増額を求める意見も出ている。1人5千円でも事業規模は事務経費を含めて2千億円程度になるという。しかも財源には、国会のチェックを受けない予備費を充てる可能性もある。将来世代に回すツケを安易に増やすべきではない。
 コロナ禍や物価上昇の影響を受けているのは高齢者に限らない。本当に困窮している国民のための支援策を、小手先ではなく一から考え直す必要がある。

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