再審無罪の賠償/検察の責任も軽くはない

2022/03/28 06:00

 大阪市で1995年に小学6年の女児が焼死した火災を巡り、再審無罪となった母親が国と大阪府に損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟で、大阪地裁が府警の取り調べを「明らかに違法」と断じ、府に約1224万円の支払いを命じた。 関連ニュース <わが心の自叙伝 米田壯>(22)取り調べ可視化 警察捜査の大転換、準備急ぐ 248日間続いた「地獄」の独房生活から解放され、無罪が確定した不動産会社創業者が今も続ける検察との闘いとは 「冤罪」で社長を辞任、「町で自社マンションを見るたび、悔しさと悲しさがこみ上げる」 【取り調べ可視化】「岡っ引き根性」正せ 不適正でも意に沿う供述 元東京地検特捜部検事・弁護士の郷原信郎さん

 一方で、検察による起訴や捜査は「違法とまでは断定できない」として、国への請求を棄却した。
 警察官の捜査の違法性を指摘しながら、その問題を見逃し、起訴した検察官の責任を問わない司法判断には違和感を禁じ得ない。判決を聞いた母親が法廷で「冗談じゃないわ」と憤ったのも理解できる。
 再審無罪を受けた損害賠償請求では、国の責任を認めない判決が出ている。根拠は「証拠書類を総合的に勘案し、有罪と認められる嫌疑があれば適法」とした最高裁判決だ。司法は判例を漫然と踏襲するのではなく、冤罪(えんざい)防止までを視野に入れた判断を示してもらいたい。
 母親は保険金目的で放火し女児を殺害したとして逮捕、起訴された。無期懲役の判決が出て服役したが、再審で大阪地裁が「捜査段階の自白に証拠能力は認められない」として無罪を言い渡し、確定した。
 国賠訴訟判決は、府警の警察官が女児の写真を見せながら大声で母親を責めたり、長男の発言として虚偽の説明をしたりした点を違法行為と認定した。母親の心情につけ込む卑劣な取り調べと言うしかない。
 刑事事件としては物証が乏しく、自白の信ぴょう性が最大の争点となった。再審では、そもそも放火ではなく「自然発火」だった可能性も指摘された。母親の供述は二転、三転していた。捜査が尽くされたとは言い難く、証拠能力を吟味すべき検察の責任も決して軽くはない。
 捜査段階の証拠を検察が再審まで開示せず、真相解明を妨げたことも厳しい非難に値する。
 母親が不当に拘束された20年間はあまりにも長く、現在も家族との関係や社会適応に苦しむ。捜査による人権侵害が甚大であることを、府警と検察は重く受け止めるべきだ。
 看過できないのは大阪地裁が示した和解勧告に対し、国が交渉のテーブルにすら着かなかったことだ。勧告は双方が無罪を確認し、冤罪防止に取り組むなど妥当な内容だった。法廷には取り調べをした警察官も出廷し、「今も(母親が)犯人だと思う」と証言した。反省の姿勢が足りないと見られても仕方あるまい。
 2019年の法改正で取り調べの可視化が義務づけられたが、対象事件が限られるなどの課題が残る。取り調べに弁護人が立ち会うのを認めるなど、刑事司法改革を進めることが冤罪の防止には欠かせない。

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